“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
地獄から戻ってきたFW木戸皓貴。
明大のヒーローはプロになれるか?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/09/12 08:00
主将として明大サッカー部を率いた木戸。身体や技術だけでなく、精神面も大きく成長できた大学生活となった。
焦ってはいけない。恐怖心に支配されてもいけない。
「もともとユニバー(シアード競技大会)出場に照準を合わせていたし、宮崎純一監督にも『力を貸して欲しい』と言われていたんです。それは素直に物凄く嬉しかったし、出たい気持ちは強かった。でも、自分はまだ万全ではない、と判断したんです。
それにユニバーシアードは最大2週間で6試合。そこから帰国してすぐに中1日の連戦が続く総理大臣杯。もし復帰直後にこのスケジュールをすべてこなすことになったら、かなり身体に負担がかかる。今の自分にその負担は危険だと思い、自分の焦る気持ちに全力でストップをかけたんです」
ユニバーシアードの大会期間中、明大で万全なコンディションに戻すことに没頭した木戸。
「もう繰り返せない。でも焦ってはいけないし、恐怖心に支配されてはいけない」
「『ゴール、ゴール、ゴール』と10回くらい……」
そして迎えた総理大臣杯。過去2回も悪夢を見た“因縁の大会”だ。
彼は初戦の松山大戦で3点目をマークして大会初ゴールを挙げると、スタメン出場した3回戦の常葉大学浜松キャンパス戦では値千金の決勝点をマーク。準決勝の流通経済大戦では途中出場で2試合連続の決勝弾を叩き込み、3年連続ファイナリストへの原動力となった。決勝でこそ法政大に0-1で敗れたが、スタメンフル出場。大学生活最後の年に、フルにエースとしての働きを見せたのだった。
「散々チームに迷惑をかけていた分、どうしても恩返ししたかった。体力的なものは問題ないし、スプリントも問題ない。本当にプレーしていて楽しかった」
ついに、彼の表情に笑顔が戻った。だが、その笑顔は昔のそれとは中身が違うのだ。
「毎試合、試合前のロッカールームで30秒間、目を瞑って集中するんですが、そこでいつも怪我したシーンがフラッシュバックしてくるんです。良いイメージを作るための時間なのに、横からそいつらが強引に割り込もうとしてくる……。
でも、そこで『ゴール、ゴール、ゴール』と10回くらい唱え続けて、押しのけてから、目を開ける。それを毎試合やっています。僕はもうその恐怖に、絶対に屈しない」