“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
地獄から戻ってきたFW木戸皓貴。
明大のヒーローはプロになれるか?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/09/12 08:00
主将として明大サッカー部を率いた木戸。身体や技術だけでなく、精神面も大きく成長できた大学生活となった。
「もう誰にも会いたくない」と、実家で引きこもる。
頭が真っ白になったまま診察室から出ると、そこに、慌てて駆けつけた木戸の両親が立っていた。それを見た瞬間、木戸は涙が止まらなくなった。
両親はうつむく息子を車に乗せ、実家のある熊本へ連れて帰った。熊本に向かう車中、木戸はずっと無言のまま、過ぎ行く景色をずっと見つめ続けていたという。
「『もう誰にも会いたくない』という精神状態までいった。実家に戻った直後、ストレスで体調を崩し、家からもまったく出られなくなった……。でも、いつまでも引きこもってはいられない。前に進まなきゃと自分に言い聞かせて、これからリハビリをして4年の春までに復帰をすれば、まだプロになれるかすかな望みはある……と信じました」
プロになるために大学進学を選んだんだ! こんなところで諦めている場合じゃない!
熊本から東京に戻り、再び必死のリハビリが始まった。
2度の大怪我で、自分の評価に大きな傷が付いた!?
しかし、復帰に向けて再び一生懸命になることができた一方で、彼の中で今まで経験したことが無いほど巨大な焦りも生まれていた。
過去、自分が注目されてきた存在だということの自覚はしていた。だが、2度の大怪我を経たことで、自分への評価に大きく傷が付いてしまったのでは……という恐怖が爆発的に膨らんできたのだ。
「自分の周りの選手たちが活躍していて、オリンピックには1つ上の室屋(成)さんが出ていて……焦りともどかしさもありました。2回も大怪我をしたのは、サッカー選手として絶対に印象が良くないと分かってましたので」
大学4年となった今年の4月。2度目の怪我から復帰を果たし、今シーズン4戦目となった桐蔭横浜大戦でのこと。
今季初スタメンとなったこの一戦へ、筆者は期待に胸を膨らませて取材に向かったが、目の前にいたのは左足をかばいながらぎこちなくプレーする木戸の姿だった。
完全復帰どころか明らかに膝に違和感を抱えている状態だと分かるプレーだった。
フル出場こそ果たしたが、試合後の彼に「まだ完治していないのでは?」と尋ねると、「まだ違和感があります。でも、プレーを続ければ、徐々にフィットして来ると思いますので」と気丈に答えてきた。
筆者には、それは焦りに支配された人間の言動だとすぐに感じられた。
嫌な予感がした。