スポーツ百珍BACK NUMBER
筒香、菊池、小林……WBCの真実。
侍ジャパン100時間密着取材の告白。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byNanae Suzuki
posted2017/06/26 07:00
ラッキーボーイとなった小林の活躍に喜んだのは、ファンだけでなくチームメートたちも同様だった。
「代打・内川」の場面はベンチ裏でも大勝負だった。
――カメラを回しながら試合の流れを掴むのって難しそうですが、実際にやってみると……。
「そう、本当に大変なんです。リアルタイムでテレビでどう映っているかをほとんど見られないのに、常にベンチ裏を含めて状況を把握しなければならない。例えば内川(聖一)選手が代打で決勝の犠牲フライを打ったキューバ戦です。試合が山場だなと思っていたら、ベンチ裏で内川選手が代打の準備を始めた。「これは出てくるぞ」と思って、内川選手にフォーカスを切り替えました。
ただこれはひとつの“賭け”でもあったんです。内川選手と代わったのは、この日2安打の小林選手だった。
そこまでのラッキーボーイ的な活躍ぶりを考えれば、小林選手がそのまま打席に立ってもおかしくないじゃないですか? でもそこで小林選手だけを狙っていたら、内川選手の準備の場面は撮れなかった。そこが選手と同じく試合の流れを掴めているかどうかになると思います」
松田と青木が果たしていた、重要な役割とは。
――菊池選手と松田(宣浩)選手のムードメーカーぶりも印象的でした。
「チームの中で年下の菊池選手と、年長組に入る松田の2人が声を出すことで雰囲気がどんどん変わっていきましたから。個人的には松田選手、そして青木(宣親)選手も重要な役割だったと考えています」
――確かに、青木選手の存在感は際立っていました。
「そうですよね。松田選手が『動のリーダー』だとすると青木選手は『静のリーダー』でした。要所要所で全体に対して的確なアドバイスを送っているんですよね」
――WBCが始まる前に、何か使命感のようなものはありましたか?
「野球中継に映らない裏側で、選手たちは色々な準備や努力をしています。その陰の部分は見せないという暗黙のルールがあるのですけれど、葛藤や苦難があった上で、チームは勝利を目指そうとしているんだよということを伝えたい気持ちはありました」