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ブッフォン「愚痴りたいことがある」
届かなかったCL決勝、魔物の正体。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/06/06 11:10
ブッフォンの悲願はならなかった。彼がビッグイヤーを掲げる姿が観たかった、そういうファンは世界中にどれほどいたのだろうか。
ブッフォン「愚痴りたいことがないわけじゃない」
一方、敗れたユーベの選手たちは憔悴しきっていた。
自身3度目の決勝に臨んだユーベの主将ブッフォンは、試合後、ガラガラの喉から声を絞り出した。ベテラン主将としてのメンツを保とうとしていたが、視線は虚ろだ。
「CLのタイトルを勝ち取るために、俺たちはあらゆる準備をやり切ったと思っていた」
大敗の結果を誰より信じられないのは、彼ら自身だろう。
21年ぶりの欧州制覇に挑んだユベントスは、バルセロナに完敗した2年前の決勝のリベンジと欧州制覇に燃えていた。彼らの士気は高かった。高すぎた。
「前半、うちはかなり走った。たぶん(気負いすぎて)飛ばし過ぎた。レアルは強かったよ。彼らの首に縄をかけたと思ったけど、後半また引き離された。(2失点につながったシュート弾道の変化について)運は味方してくれなかった。CLのタイトルを勝つには、あらゆる逆境や不運にも打ち勝つ強さが必要なんだな」
不世出のGKは「悔恨や愚痴りたいことがないわけじゃない」と正直だった。来年40歳になるブッフォンに、来季再び栄冠を目指す気力と体力は残っているだろうか。
ユーベが落ちた陥穽は、鉄壁の守備そのものにもあった。
彼らはレアルへの対抗策として、ハイプレスではなく自陣に引いて紙一重で凌ぐ方法を選んだ。準々決勝でバルセロナを完封した自負があったのは間違いない。ただし、それが自分たちの守備技術を過信する罠につながった。
「なあ、昨日のはユーベじゃなくてペスカーラだよな」
ユベントスのうなだれた姿が、昨季のA・マドリーに重なる。
戦力層でも、采配でも遅れを取ったし、不運もあった。しかし、決勝戦独特の心理マネージメントの失敗こそが、ファイナル特有の“魔物”の正体ではなかったか。
最強の挑戦者ユベントスを退けた白い巨人を、UEFAは「Majestic Real(威厳あるレアル)」と称えた。
一夜が明け、レアルの面々はマドリードへ凱旋した。祝祭は夏の間中、続くだろう。
トリノに帰還したユーベは無言を貫いたが、近所のバールの親父は、不満たらたらで語りかけてくる。
「なあ、昨日のカーディフでの試合、後半レアルとやってたのはユーベじゃなくて、ペスカーラだったよな。そうだと言ってくれよ」
イタリアとスペインに訪れようとしている夏は、あまりに眩しい。来年の決勝の地キエフのことを考えるのは、今はまだちょっと早すぎる。