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「どんどん選手生命を長くしたい」
葛西紀明、44歳が目指す五輪の先。
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byGetty Images
posted2017/05/04 09:00
'90年代から'10年代にかけて世界を転戦し続ける葛西は今もなお充実のジャンプ人生を送る。
好成績を残しながらも感じていた、ある戸惑い。
シーズン最終戦のプラニッツァ大会フライングヒルでは、直前の試技で転倒するアクシデントで4位に止まったが、公式練習やその前の団体戦では最長飛距離を次々と記録。そこで感じた「もう勝てる位置まで来ている」という自信が、ソチ五輪シーズンにつながったのだ。
「ソチで銀メダルを獲ったから、という気負いもまったくなかった」と普段どおりに迎えた'14-'15シーズン。葛西は開幕戦で6位に入り、次戦で3位、第3戦で優勝を果たした。その後、大半の試合でひと桁順位を確保し、W杯総合順位では6位になった。そして昨シーズンも3位5回という安定した成績を収め、総合8位に入った。
だがその成績に彼は戸惑いを覚えている。
「正直にいえば、不安はありますね。技術的にはソチ後も結果が出せているので問題はないと思いますが、講演など競技以外のことで忙しく、春から夏にかけてはフィジカルトレーニングが以前のようには出来ていないというのが五輪後はずっと続いているので。自信を持ってというより不安の方が大きいのに、この2シーズンであれだけの成績を残せたというのが、自分でも不思議なんです」
ライバルに対して生まれた、ある心境の変化。
好調の要因は精神状態が安定しているからなのだろう。かつては五輪2大会2冠のシモン・アマン(スイス)や、W杯最多勝利記録の53勝を持つグレゴア・シュリーレンツァウワー(オーストリア)などに対し、「あいつらには絶対負けたくないと思っているんです」とライバル心を露わにしていた。だが昨シーズン以降、心境が変化したという。
「そこまでレベルが離されていなかったら負けたくないと思うだろうし、トップ争いをしていたら悔しさはあると思います。でも昨シーズンはペテル・プレブツ(スロベニア)が絶好調でシーズン歴代最多の15勝もしていたから、『あれだけ調子がよかったらしょうがないかな』というふうに思っていました」