Jをめぐる冒険BACK NUMBER
大久保、憲剛の「代役」ではなく――。
川崎・小林悠、三好が見せた自分の色。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2016/09/28 11:00
小林はこの日の決勝弾で大久保と並ぶ今季リーグ戦15得点目をマーク。得点ランク1位のピーター・ウタカとは3点差と得点王も射程圏内だ。
チームを救った小林は、三好のミスも帳消しにした。
ファーストステージをわずか1敗で駆け抜けた川崎だったが、セカンドステージでは前述した第12節の大宮戦だけでなく、第8節のサガン鳥栖戦、第10節の柏レイソル戦にも敗れ、強さに陰りが見え始めていた。
あのままドローで終わっていたら、このままズルズルと失速してしまってもおかしくない。そんな危機的状況からチームを救った値千金の決勝ゴール――。その意味で、小林のゴールがもたらしたのは、単なる勝点3ではなかった。
だが、小林のゴールが救ったのは、チームだけではない。チームの未来を背負う19歳の若者も、小林のゴールによって大きく救われていた。
「完全に自分のミスだったので、本当に助けられました」
試合後のミックスゾーンで額から吹き出る汗を右手で拭いながら、三好康児は安堵のため息をついた。同点に追いつかれた90+8分の場面、齋藤学にプレゼントパスを与え、痛恨のミスを犯していたのが、この19歳の若者だったのだ。
ループシュートを決めた直後に味わった恐ろしさ。
「(大島)僚太くんとエドゥ(エドゥアルド)がちょうど後ろにいて、僚太くんに丁寧に出したつもりだったんですけど、中途半端な位置に行ってしまって……。それなら自分で蹴っておけばよかったと思いますし、残り時間が少ない中での小さな判断ミスが大きな失点につながってしまうので、本当にもったいないなって」
大久保やエドゥアルド・ネットが出場停止だったため、10試合ぶりの先発となった生え抜きのアタッカーは、何度もゴール前に飛び出し、チャンスを創出。84分には田坂のパスを受け、GKの鼻先でボールを浮かせ、勝負を決定づける(と思われた)チームの2点目をゲットした。
マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍で、ヒーローインタビューも間違いなし。ところが、自身のゴールから14分後、自陣でしゃがみこみ、頭を抱える三好がいた。プロ2年目の若者にとって改めてサッカーの怖さを思い知るゲームになったに違いない。