猛牛のささやきBACK NUMBER
「初回はノーアウト満塁でもいい」
オリ・若月健矢に同居する強気と繊細。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/08/17 11:30
昨年の一軍出場は5試合。3年目にして一気に正捕手の座に手をかけた若月健矢、武器の守備に加えて打撃にも期待がかかる。
中田翔に打たれ、「考えればわかるじゃん!」。
「もちろん経験が浅いから、絶対にどこかでポカはあるだろうし、壁にぶち当たったりパニクることもあるだろうけど、今はそのつど、そういう失敗を二度としないように原因を深く追及して、次に活かすということを毎日やっている」
鈴木コーチがそう言うように、若月は痛い失敗や敗戦を着実に糧としている。
今季の前半戦最後の試合となった7月13日の北海道日本ハム戦。オリックスは7回まで2-0とリードしていたが、8回表に2アウト満塁のピンチを招き、平野佳寿がマウンドに上がった。そこで迎えた日本ハムの4番・中田翔に対し、2球フォークのあとの外角のストレートを右中間に運ばれ、2-3と逆転されて敗れた。この選択を若月は何日も悔やんだ。
「中田さん、普段はホームランを狙ったフルスイングが多いんですけど、あのときは初球のファールでチームバッティングを意識しているのがわかったんです。そこで『どうしよう?』と考えがあいまいなまま行ってしまった。『フォーク3球続けるのもなー』というのもあって。でもやっぱりあそこは平野さんの勝負球のフォークを信じて行くべきだった。『バカだな、あそこでなんでまっすぐにしたんだオレ。ちゃんと考えればわかるじゃん!』って後悔して、夢にも出てきました」
投手に首を振られても、簡単には変えない。
その経験を活かしたのが7月24日の日本ハム戦だった。3-2と1点リードの8回裏2アウトニ、三塁で中田を迎えた時には、マウンド上の吉田一将に、8球連続で打者が合っていなかったフォークを要求。我慢のリードで空振り三振に抑えた。
そうやって失敗も糧にしながら考え抜いたサインだから、先輩投手に首を振られても簡単には折れない。感情が顔に出やすい西勇輝の登板日は、その表情からバッテリー間のやりとりを想像するのも一つの見どころになっている。
「それいくのかよ?」と首を振る西。
「これしかないでしょ!」と折れない若月。
「わかったわかった。それでいけばいいんだろ」と仕方なくうなずく西。
そういう時は必ずと言っていいほど打ち取ってきた。若月とのバッテリーで3連勝となった7月12日の試合後、西は「今日も(同じサインを)出し切りましたね、若月」とニヤリと笑った。日に日に信頼感は高まっている。