猛牛のささやきBACK NUMBER
「初回はノーアウト満塁でもいい」
オリ・若月健矢に同居する強気と繊細。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/08/17 11:30
昨年の一軍出場は5試合。3年目にして一気に正捕手の座に手をかけた若月健矢、武器の守備に加えて打撃にも期待がかかる。
「初回は『ノーアウト満塁でもいい』くらいのつもり」
度胸たっぷりに年上の投手陣を引っ張っている若月だが、実は試合に入る前はいつも不安にさいなまれている。試合までの時間があればあるほど最悪の事態が頭をよぎり、吐きそうになることもあると言う。
「自分はもともと性格的にそんなにポジティブじゃない。むしろネガティブです」
しかしネガティブ思考は、あらゆる事態に備えるという意味では捕手に必要な要素かもしれない。若月は言う。
「試合には常に最悪の状況を考えて入ります。特に初回は、『ノーアウト満塁でもいい』くらいのつもりで。そうすると、あ、1個アウト取れた、ラッキー、2個取れた、ラッキー、みたいな感じでいける。もちろん抑えるイメージで行きますけど、それだけだと、抑えられなかった時の準備ができないので。『最悪6番まで回していい』と考えますね。たとえば先頭打者が出て、2番がバントして1アウトニ塁、全然オッケーです」
そう言って笑うと顔がくしゃくしゃになる。強気と繊細さが同居する不思議な20歳だ。
オリンピックを見る時間は、リードの準備で消える。
連日、リオデジャネイロ五輪での日本選手の活躍に日本中が沸いているが、オリンピックは見ていないという。練習前からその日の試合のリードの準備をし、試合が終われば自身の配球を振り返って反省する毎日。とても五輪を見る時間はない上、もともとテレビはあまり見ないのだという。
そんな若月も日の丸をつけて戦ったことがある。花咲徳栄高3年の秋、U-18日本代表メンバーとしてワールドカップに出場した。ただ、その時は控えで、同世代の中でも力の差を思い知らされたと振り返る。当時、若月の前に立ちはだかっていたのが森友哉(埼玉西武)だった。