猛牛のささやきBACK NUMBER
田口二軍監督も認めるチャンス強さ。
オリ・奥浪鏡の「打点への嗅覚」。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/06/25 11:00
6月14日の初打席。阪神・能見を相手に初安打となるセンター前ヒットを放った。
「やせた方が」の声にも、「僕は僕」。
最初は「怪我をするからもっとやせた方がいいんじゃないか」という声もあったという。しかしボールを飛ばすことにこだわっていた奥浪は自分を曲げなかった。
「僕のスタイルがあるので、他のかたに何と言われようと、僕は僕。やせて自分のパフォーマンスが出せなくなって戦力外になるよりは、この体で全力でやった上で、怪我をして野球から離れたとしても、僕はそっちの方が満足です。それに、この体でも怪我なく1年間やり通して、こういう体型の人は怪我をしやすいというレッテルを変えたいという思いもあります」
その言葉通り、プロに入ってここまで大きな怪我なくやってきた。
高卒で入団した同期には、若月健矢、吉田雄人、園部聡の3人がいる。3人とも甲子園出場経験があり、U-18日本代表でも活躍したいわばエリート。甲子園経験のない奥浪は、入団当初から彼らへのライバル意識をむき出しにした。
「3人は高校ジャパンで実績を残したし甲子園にも出た。僕は実績がないままこの世界に入ってきたし、指名順位も一番下だったけど、この世界では自分が一番実績を残したい。一軍で一番最初に結果を残すのは僕。何があってもそこだけは譲りたくない」
第4打席では際どいボールを堂々と見送り。
だから昨年、若月が4人の中で最初に一軍に呼ばれた時は、「お前が先か」と悔しがった。
しかしその約1年後に自分にも巡ってきたチャンスを、初打席で見事にものにした。
ぐるりと360度、約4万人の阪神ファンに囲まれる甲子園独特の雰囲気を、奥浪は力に変えた。
「甲子園、めちゃくちゃよかったです。敵のファンですけど、あんまり敵の応援だと思わずにやれたので、守っていても若干落ち着く部分がありましたし、意外と気分がよかったです」
その後、第3打席で2本目のヒットを放つと、第4打席では際どいボールを堂々と見送って四球を選んだ。
「自分の打てない球を打ってもしょうがないので、とりあえず打てる球だけ待って、その打てる球が来たら、思い切って振っていこうと思ってやっていましたから」