猛牛のささやきBACK NUMBER
田口二軍監督も認めるチャンス強さ。
オリ・奥浪鏡の「打点への嗅覚」。
posted2016/06/25 11:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
NIKKAN SPORTS
「これが一軍かー」
6月14日の甲子園。慣れないナイター照明に目をしばたたかせながら、オリックスの奥浪鏡は喜びを噛みしめていた。
初めての一軍昇格を告げられたのは2日前。田口壮二軍監督からは、「今のチーム状況をどうにか変えてこい」と言って送り出された。
3年目で迎えた念願の一軍チャンス。興奮と緊張がどっと押し寄せた。翌日はオフだったが、そわそわして部屋でじっとしていられず、ドライブに出かけて気を紛らわせた。
そして迎えた14日の阪神戦。いつまでも緊張はしていられないと、練習ではいつも以上に体を動かして汗をかき、試合に備えた。
奥浪は7番ファーストで先発出場。2回表に初打席が回ってきた。
「意外と冷静」に初安打を記録した初打席。
「最初こそ緊張して、どうしようって思ったけど、その頃には意外と冷静でした。打てなかったら、またファームでやり直せばいいって、開き直れていたので。それに甲子園ということもあって。僕が高校時代に目指していて、行けなかった憧れの場所だったので、そういうところでできることを嬉しく感じてやろうって思っていました」
マウンドには、阪神の左のエース能見篤史。その5球目を、思い切りのいいフルスイングでセンター前に運んだ。
「『あーやっと上にあがって、打ったんだな。よかったー』とほっとしました。ま、たまたまな部分もあったと思うんですけど、振れたというのが大きかったですね」
えびす様のような愛嬌のあるニコニコ顔で初安打を振り返った。
創志学園高校時代は通算71本塁打を放って注目され、2013年のドラフト6位でオリックスに入団した。身長176cm、体重100kgのどっしりとした体格とトレードマークのえびす顔は、昔懐かしい長距離打者の雰囲気を醸し出す。