熱血指揮官の「湘南、かく戦えり」BACK NUMBER
ついにホームで2連勝の湘南。
曹監督が選手に伝えた3つの「I」。
text by
曹貴裁Cho Kwi-Jae
photograph byShounan Bellmare
posted2016/06/22 12:00
ホーム2連勝でサポーターに笑顔で挨拶する選手たち。ステージ後半になってジリジリと良い結果が出始めている。
欧州・南米の若く才能ある選手に共通する能力とは。
●6月16日(木)
現在ヨーロッパと南米で行われている欧州選手権とコパ・アメリカを見ていると、何人もの若い選手がトップレベルで高いパフォーマンスを発揮している。自分の日々の指導を通じても感じることだが、彼らのような選手は総じて、成長するために大事な能力を持ち合わせているんだろうな、と感じる。
その1つは「学習能力」。何かにトライしてそれを検証し、それをまた判断して次に持っていく力。これはビジネスでいうPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルと同様、フットボールの世界でも不可欠なこと。本能でプレーすることも大事だけど、本能そのものも磨けるよう常に学習できる選手は非常に成長が速い。
2つ目は「体験力」。この言葉は最近使っているものだが、経験を積み上げられる力を指している。そういう意味では学習能力と近いものがあるが、前の経験をもとにその次は変えてみたりして、同じ失敗を繰り返さない。
3つ目は「自己表現力」。ただ上手に話すことができるという意味ではなくて、その時その状況で感じたことをプレーや言葉、態度で示すことができる。これは単純な好き嫌いを表すということではなくて、しっかり自分の意思のもと、その状況に応じた表現ができるということだ。
この3つの能力は選手が成長するためにはもちろん、スタッフの力や組織力を伸ばしていく上でも非常に大事で、持ち合わせていれば成長が非常に速いと思っている。当たり前だけどそれぞれを最初から備えている人間なんていなくて、だからこそ繰り返しにはなるが成功体験を持って日々取り組み、いろんなことを実感しながら試合に臨む。うまくいくことやいかないことを経て、次に向かっていく。そういう経験をしていくことが大切になる。
これからの夏の12試合、選手がこの3つの力を意識してトレーニングに取り組めるよう、自分も普段の指導の中から取り入れていきたい。
●6月17日(金)
先週のガンバ大阪との試合での3失点は非常にもったいない取られ方だった。ひとつは時間帯。前半終了間際にファウルをして相手にフリーキックを与えてしまい、もう少し時間を考えたプレーをしなければならなかった。またセットプレーの守備で本来マークしなくちゃいけない選手、本来そこにいなきゃいけない選手がいなくてやられてしまったり、ちょっとしたコミュニケーションの問題でやられてしまったりと、あの失点に関しては全て自分たちに非があったと思っている。
こういう時に選手に学習をさせるために、その状況を切り取り「ここが悪いからそこはこうして……」とそのまま練習に落とし込むと、選手は逆にそこに引きずられがちになってしまう。もちろんその経験を次に繋げられるような働きかけはするが、そこに対して選手自身がアイディアを出し、ひとつのやり方にとらわれないような練習を今日まで行った。
例えば攻撃でDFラインから縦のパスを入れるトレーニングをした時は、オフェンス側が数的優位であれば当然ながらパスは入れやすいから、同数か数的不利な設定にし、パススピードやパスのもらい方に工夫が必要な状況を作った。そうすることで選手どうしも「このタイミングで出してほしい」「そこでは出せないから動き直してくれ」と自己表現をするようになる。また紅白戦ではあえて狭いコート、広いコートで連続して行い、相手のプレスを感じる時間の差異を出して、それぞれの状況に合わせて判断を変えられるように自分なりにアプローチしてみた。
こうしたトレーニングでの学習と、ガンバ大阪戦で得た経験値、アウェーでも積極的に点を取りにいく姿勢だったり、序盤から自分たちのリズムで戦えたという点を改めて見せられるか。そして試合の中で選手それぞれが自己表現をできるか。この1週間で根本的に全てが変わるわけではないが、それらを活かし、選手には試合を楽しんでもらいたいと思う。