欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
笑顔のシャビ、泣きはらしたピルロ。
CL決勝で交錯した「有終と悔恨」。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2015/06/07 12:15
この日、シャビはイニエスタからキャプテンマークを受け取ってピッチに入っていった。黄金の中盤を支えた男の、バルセロナでの華々しい幕引きだった。
モラタの同点弾から訪れた「ユーベの時間」。
55分、この夜ユーベの中盤で唯一ボールを扱えていたMFマルキージオが動いた。右サイドの中盤でボールを取ると、マークを引きつけた後、右サイドの裏を駆け上がるSBリヒトシュタイナーへ右足ヒールパスを通す。
PA内中央にいたFWテベスは、リヒトシュタイナーの低空クロスをターンしながら左足で直接シュート。バルサGKテア・シュテゲンがこぼしたボールを、FWモラタが右足で押し込んで、試合は1-1の振り出しに戻った。
同点としたユベントスはラインをぐっと押し上げ、バルサを自陣に追い込む。
モラタが右サイドを崩した63分、ユーベに逆転の絶好機が訪れた。テベスの右足シュートはクロスバーの上に外れてしまったが、イタリア王者は一気に逆転へ持ち込む勢いだった。
攻勢にある時こそ、3トップのカウンターは怖い。
しかし、今季のバルサを最強たらしめたカウンター攻撃が炸裂したのは、まさにその時間帯だった。バルサの指揮官に就任して1年目のルイス・エンリケは、相手が攻勢にあるときにこそ、最も効果を発揮する最強の矛を“MSNトリオ”とともに作り上げていた。
68分、ボールを持ったメッシが弾かれたようにセンターサークルからドリブルで飛び出した。ペナルティエリアに到達するや否や、鋭く左足を振りぬく。ブッフォンは辛うじて弾くのが精一杯で、こぼれ球をスアレスが右足インサイドで押し込んだ。
ルイス・エンリケはベンチを飛び出し、大きく3度、飛び跳ねた。
再びリードを奪ったバルセロナは、同時に試合の主導権も取り戻した。オリンピア・シュタディオンの濡れた芝に滑る選手が続出しても、彼らのパスワークのコントロールは憎らしいほどに精密そのものだった。71分にネイマールのへディングゴールがハンドと判定された後も、バルサは動じなかった。
それでもユベントスは、ゲームへ必死に踏みとどまる意地を見せた。
88分、もはや走れなくなったDFエブラが敵陣での接触プレーで倒れ込んだまま起き上がれなくても、ユーベの選手たちは誰一人手を貸さなかった。時間を無駄にしたくない彼らは、自陣へ一刻も早く戻り、相手を迎撃することを優先した。非情ともいえる勝負への執着こそ、ユーベ魂の神髄だからだ。