欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
笑顔のシャビ、泣きはらしたピルロ。
CL決勝で交錯した「有終と悔恨」。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2015/06/07 12:15
この日、シャビはイニエスタからキャプテンマークを受け取ってピッチに入っていった。黄金の中盤を支えた男の、バルセロナでの華々しい幕引きだった。
ピルロは目をはらし、ブッフォンは空を見つめた。
97分、最後のプレーでボールを奪ったネイマールは、左サイドを駆け抜けた。一度FWペドロに預けてから、PA内で再びボールを受けると、正確そのものの左足でゴール右隅にコントロールショットを突き刺した。
バルサの3点目は、驚異の南米トリオが決めた今季122ゴール目だった。シャキル主審が、3-1を認定する笛とタイムアップを告げる笛を同時に吹いたとき、バルサの選手たちは、すでにお祭り騒ぎを始めていた。
試合終了からわずかも経たないうちに、ユーベのベテラン司令塔ピルロの両目は、泣き腫らした痕で真っ赤になっていた。「アンドレア(・ピルロ)が感情を露わにするのはよっぽどのことだ」と心情を慮ったブッフォンも、苦い表情で唇を噛みしめ、上空を見つめていた。主将という肩書がなければ、この鉄人も号泣していたことだろう。
CBボヌッチは3バックが使えなかったことを悔やみ、モラタは「勝てる可能性はあった。このチームはいつかCLで勝てる」と前を向いた。
CLファイナル4連敗という不名誉なクラブ記録を更新した指揮官アッレグリだったが、敗軍の将として素直にバルセロナの勝利を称えた。不用意な2失点目を悔やみつつ「来季以降も継続的にCLベスト8の常連となることが今後重要だ」と言い残し、欧州の覇権奪回へ再び挑むことを静かに誓った。
L・エンリケ「タイトルに値したのは我々だった」
一方、冬には反目し合った選手たちから胴上げされ、ベルリンの空に舞ったルイス・エンリケは、興奮冷めやらぬグラウンド上で率直な感想を述べた。
「バルセロナのようなビッグクラブを指揮するのは、簡単なことではないとわかっていた。それでもシーズンの最後で、偉大なイタリア王者ユベントスを相手に素晴らしい試合ができた。ブッフォンとピルロにとっては残念だとは思うが、タイトルに値したのは我々だった」
新監督ルイス・エンリケの下で今季の3冠を達成したバルサは、新たな黄金時代の扉を開いた。
バルサでの766試合目を終えた35歳の主将シャビは、表彰式を前に、決勝戦のボールを頭でリフティングしていた。78分から交代出場したシャビは、自身4度目のビッグイヤーを掲げて、愛するクラブでの有終の美を飾った。少年の笑顔のシャビには、新天地カタールが待っている。
イタリア王者とスペイン王者が、ベルリンで雌雄を決した夜。緑の芝の上で、白・黒とエンジ・青の鮮やかな色彩の選手たちが、打って、走って、ぶつかり合った。敗者に涙と悔恨はあれど、勝者が実力と笑顔で魅せたグッドゲームだった。