オリンピックへの道BACK NUMBER
伊藤みき、積み重ねた時間の果てに。
「膝の悪化で棄権」という残酷な現実。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShinya Mano/JMPA
posted2014/02/07 11:45
スタッフの助けを借りながら医務室へ向かう伊藤みき。26歳で迎えた3度目の五輪、8日の予選2日目は果たして……。
本当に少しずつ、上り詰めてきた伊藤みき。
今まで何度か取材する中で、伊藤は競技人生の、それぞれの出来事のつながりに触れてきた。
トリノで、世界一になった選手だけが得られる価値や喜びを発見し、バンクーバーへの思いを新たにした。バンクーバーでは、シーズン前の怪我などもあり、納得がいかない状態で五輪を迎えることになり、だからこそ決勝では、「ソチへのスタートにしよう」と決意して滑ったという。さらに懸命に練習に取り組み、昨シーズンは世界選手権で2つの銀メダルを獲得するまでに力をつけてきた。
「もうほんとうに積み重ねてきて、自分はあるのだと思います」
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突然飛躍した選手ではない。本当に少しずつ、上位へと上がってきたのが伊藤だ。バンクーバー以降だけではない、それらの時間すべてがあるからこそ、ソチをあきらめようとは思わなかったのではないか。
4年というのは、選手にとっては長い時間だ。
客観的には、無理をしないで4年後を目指すべきだったという見方は十分成り立つ。だが4年というのは、選手にとっては長い時間だ。簡単に「じゃあ4年後」とはなれない。ましてや、あらゆるものを積み重ねてきての今日であることを考えれば、なおさらのことだ。
そう思うからこそ、伊藤の光景は重たかった。
むろん、まだ理論的には可能性がないわけではない。この日の予選で決勝進出が決まったのは10位までの選手。残る10枠は、8日の予選2回目で決まる。伊藤もその予選に出場することはできる。
とはいえ、この日のアクシデントを受けてのことだ。林辰男フリースタイル部長は言う。
「ドクターの意見も聞くけれど、厳しいでしょう。本人が出たいと言えば出す、というものでもない」
そして付け加えた。
「何よりも本人が、いちばんきついでしょう」
心情を慮った。