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<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2014/02/06 06:15
それぞれの過程を経て、ソチ五輪を迎える。
モーグル女子の両翼を担うエースはそろって順調に、
そして自然体で、決戦の舞台に臨むはずだった――。
開幕まで僅かとなったソチ五輪。
今回はNumber845号に掲載したモーグルの伊藤みき選手、
上村愛子選手の記事を全文公開します。
今なお、4年前のあの日の光景を鮮明に覚えている。消しても消せない記憶だ。
「金メダルを狙う」
誓った目標はかなわず、伊藤みきはバンクーバー五輪で12位に終わった。
決勝を滑り終えた伊藤は、取材陣の前で涙を浮かべながらも笑みを交え、問われる前に宣言した。
「ソチを目指して、これから4年間、頑張ります」
その直後、取材の場から一人引き上げる通路で、抑制は失われた。とめどなく流れる涙と赤い鼻。初めて見せるその姿は、抑え切れない感情が爆発しているかのようだった。
「悔しいときはもう、細胞の一つ一つが悔しがっているというくらい、負けず嫌いです」
自身を分析してこう語ったことがある。目標に届かなかったことがただ悔しかった。
このままでは終われない。その日から、言葉通り、伊藤の4年間は始まった。
積み重ねに自信があったから、体調管理を重要視した。
何が自分には足りないのか。課題は何か。模索しつつ、地道に練習に励む日々が開花したのは昨シーズンだった。従来の丁寧さにスピードが加わった滑り、エアの安定を手に入れると、世界選手権ではモーグル、デュアルモーグル(オリンピックでは実施されない)ともに銀メダルを獲得。ワールドカップでも初優勝を飾り、まぎれもなく世界のトップをうかがう位置に上りつめたのだ。
シーズンが終わるや否や、春から雪上での練習機会を得て上積みを図った。手ごたえは十分だった。シーズン開幕前、オリンピックまでの課題を問われての答えにもうかがえた。
「残りの期間でやっていくことは、それこそ睡眠であったり食事に気をつけたり、体調の管理になっていくと思います。12月14日にワールドカップが開幕して、その次の試合が1月4日。そこから5試合あって、一度帰国してオリンピックというスケジュールなので、流れが大事だと思います」
バンクーバーのシーズンはシーズン前の故障に泣かされた。だからこそ、体調管理を重要視したし、また、体調管理だけがやることであると語ったのは、積み重ねてきたことへの自負の表れでもあった。