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競馬の固定観念を変えた美形の名馬、
エアグルーヴが残した偉大なる足跡。 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2013/04/26 11:50

競馬の固定観念を変えた美形の名馬、エアグルーヴが残した偉大なる足跡。<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

1997年の天皇賞・秋。単勝オッズ4.0倍の2番人気で出走したエアグルーヴ(写真左)は、最後の直線で前年覇者の1番人気・バブルガムフェローとの壮絶な叩き合いを制しクビ差で先着。同レース、牝馬として17年ぶりの勝利を収めた。

牡のチャンピオンのケンカを買った武とグルーヴ。

 '95年の皐月賞馬ジェニュイン、快速馬サイレンススズカなど豪華メンバーが揃ったここで1番人気に支持されたのは、名手・岡部幸雄を背に前哨戦の毎日王冠を完勝した前年の覇者、牡馬バブルガムフェローだった。単勝1.5倍。大本命と言っていい支持のされ方であった。

 それでも、グルーヴの主戦・武豊は自信に満ちていた。

「充分勝ち負けになると思います」

 レース前はそう話していただけだったが、調子が良くなっていたことに加え、やる前からバブルガムフェローよりグルーヴのほうが強いと思っていたのだという。

 実際、武は、「力が上の馬がきっちり勝ちに行く競馬」のお手本のようなレースをした。

 外目の12番枠から出たグルーヴは、バブルガムフェローら内の馬を先に行かせ、中団の外目にポジションを固定した。向正面では大逃げを打ったサイレンススズカから10馬身以上離れた3番手にバブルがいて、グルーヴは、その5馬身ほど後ろで折り合いをつけた。

 最後の直線。ラスト400メートル地点で、馬場の真ん中からバブルがサイレンスをとらえにかかった。しかし、岡部は一気に差を詰めようとはせず、グルーヴが来るまで追い出しを待っていた。

 武・グルーヴは、牡のチャンピオンが仕掛けてきた、そのケンカを堂々と買った。

バブルガムフェローを力でねじ伏せたクビ差の勝利。

 グルーヴは、ラスト200メートル地点で外からバブルに並びかけ、そこからビッシリ叩き合うマッチレースの形に持ち込んだ。

 馬体を併せる格好になると牝馬は牡馬に威圧されてしまい、たとえ走力では優っていても競り落とされてしまう……というのが、いわゆる「競馬の常識」である。

 ところがグルーヴは、牡馬の威圧に屈するどころか、逆に力でバブルをねじ伏せてしまった。武も、バブルから馬体を離そうとはせず、右ステッキでパートナーを叱咤しつづけた。馬は叩かれたのと反対側に進もうとするので、この場合は左、つまり内のバブルに体を寄せるように、武は鞭を使った、というわけだ。

 着差はわずかに「クビ」だったが、まったく危なげない、完勝とも言えるクビ差であった。

 牝馬による天皇賞制覇はプリティキャスト以来17年ぶりのことだった。

 グルーヴはこの年、牝馬としてはトウメイ以来26年ぶり史上2頭目の年度代表馬に選出された。

「ぼくも含めて、関係者は、『牝馬は牝馬』と思いすぎていたところがある。それを打ち破ったのがエアグルーヴじゃないですか」

 武のこの言葉が、グルーヴのなし得た仕事の大きさを端的に言い表している。

【次ページ】 「名牝」が「名馬」となる道を最初に切り開いた功績。

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