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ディープインパクト最期の5カ月間。
おぼっちゃまで、アクションスター。

posted2019/10/09 07:30

 
ディープインパクト最期の5カ月間。おぼっちゃまで、アクションスター。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

ディープインパクトが暮らした馬房には、今も遺影と遺骨が安置されている。

text by

松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

PROFILE

photograph by

Asami Enomoto

 馬房を撮影中のカメラマンの頭を、背後からハービンジャーが鼻でツンツン。

 9月下旬、種付けシーズンを終えた社台スタリオンステーション(SS)には、ゆったりと、穏やかな空気が流れていた。

 ただひとつ、2カ月前までと違うのは、カメラマンがレンズを向ける先に“英雄”がいないこと。それでもディープインパクトの馬房内には、今も寝藁が整えられている。

 ディープインパクトは、サンデーサイレンス産駒の中でもとりわけ「よく寝る」馬だった。社台SS事務局の徳武英介氏は、こう振り返る。

「上品で、物静かで、フレンドリーだった。ゆっくり食べて、よく眠る。サンデー系の馬はあちこちに食い散らかすことも多いし、こちらがカイバを隠しても、見つけ出してガツガツ全部平らげちゃう。逆にディープはきれいに、ゆっくり食べる。カイバを残すこともありました。

 曾祖母にあたるハイクレアは、エリザベス女王の所有馬ですからね。“おぼっちゃま”なんです。カイバを残しても、もったいないと思わない(笑)。むしろ食べることよりも、寝ることを優先させる。横になって、よく寝る馬でした」

 おぼっちゃまらしく、性格は上品で穏やか。放牧地に出れば現役時代同様、しなやかに走る。餌をいつもより多めに食べたときは、その分、自ら駆け回って体重をキープ。ほかのどの馬よりも、自己管理ができていた。

「普段はぼーっとしているのに、種付けのときになると『今日は仕事だ』とスイッチが入る。アクションスターみたいでしたね。名種牡馬はだいたいそうですけど、種付けにもたもたしない。だから着実に子どもをつくりますし、種牡馬としても成績を残すんです」

ディープに異変が起きた2月19日。

 2月19日の朝、そんな“アクションスター”に異変が起きた。普段、種付けの日ならば馬房内でそわそわしているディープインパクトが、横になって寝たままだった。

 スタッフが引き起こしてみると、歩様がおかしかった。放牧中に柵にぶつかったり、壁を蹴ったりすることもなかったが、首を痛がる素振りを見せ、腫れも出てきた。

「種牡馬として体をすり減らしていたという報道もありましたけど、実は真逆で。病気知らず、医者要らずの馬でした。薬を使うこともなく、ナチュラルに齢を重ねていました。唯一、背腰に疲れが出やすい。そこは僕らも熱療法だったり、マッサージで常にケアしていました。ところが今回は突然、首に痛みが出たんです」

【次ページ】 手術の成功率は95%だったが……。

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