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同期の蛯名正義が語る天才・武豊。
「強い馬を頼まれる」ことの偉大さ。
posted2017/02/11 08:00
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph by
AFLO
蛯名正義と武豊はJRA競馬学校騎手課程第3期の同級生で'84年の入学だ。武が名騎手の三男という業界エリートならば、蛯名は一般家庭から騎手をめざした。
「競馬学校で最初に会ったときは、この子が武邦彦さんの息子さんなんだ、というぐらいの感じでした。こども同士だから、普通の高校の同級生とおなじ感覚です。それはデビューしてからも変わらない。
彼は見た目と一緒で乗ることも話すこともスマートだったけど、デビューしてからも優等生の受け答えができていた。みんなが聞きたいことにちゃんと答えて、腹立つことでもきちんと返している。頭の良さというか、生まれながら持っているというのか、ああいうのは教わってできるもんじゃないですよね。それが若いときからできていたんだから、人気も出るし、みんなが応援したくなるんじゃないかな。
彼は強い馬に乗って、ちゃんと結果を出してくる。
『武は楽に乗って楽に勝っている』とよく言われるけど、そうじゃない。背が高くて、スッとしてるから楽に勝っているように見えてしまうのかもしれないけど、実際は、いろんなことがそこに凝縮されているんです。でも、そういうのを見せないところがプロだということ。それと『武は強い馬に乗ってるから勝てる』というのは乗っていないやつが言うこと。騎手は強い馬を頼まれることが大事なんです。彼は強い馬に乗って、ちゃんと結果を出してくる。自分もたくさん強い馬に乗せてもらっているけど、なかなかうまく乗れていないから。
自分が勝っているところ? あきらめが悪いところ(笑)。何回やっつけられても負けたくないという気持ちでやってきた。素質があったわけでも、うまいわけでもないから、負けたくないという気持ちがあってここまでやってこられたんだと思います」