ソチ五輪 雪と氷の情熱BACK NUMBER
アイスホッケー女子世界選手権展望。
大会の“意味”と日本代表の横顔。
text by
小川勝Masaru Ogawa
photograph byAFLO SPORT
posted2013/04/06 08:01
目にパック、口にはスティックがあしらわれた「スマイルジャパン」のロゴの前で笑顔を見せる選手たち。左から、日本の攻撃をリードする久保英恵、21歳の主将・大澤ちほ、フィンランドでのプレー経験もある平野由佳。
日本の女子選手の中で際立った技術を持つ久保の復帰。
久保は、168cm、63kgと、日本の女子アイスホッケー選手の中では体格にも恵まれ、1999年の冬季アジア大会の時、16歳で代表に招集されている。その後も2001年のソルトレークシティ五輪世界最終予選、2004年のトリノ五輪世界最終予選と、ずっと日本代表の中心選手としてプレーしてきた。選手が密集した中でのスティックさばき、瞬時にパックを上げて、相手GKの肩口を狙えるシュート力など、技術の高さは、日本の女子選手の中で際立っている。
2008年のバンクーバー五輪世界最終予選では代表から外れ、その後は招集されなくなって、一度は現役を引退した。しかし2011年7月、サッカーのなでしこジャパンが女子W杯で優勝したことに刺激を受け、現役復帰を決意。スケート場で働きながら、SEIBUプリンセスラビッツに戻ってプレーを再開した。そして昨年、5年ぶりに代表にも招集されて今回のソチ五輪切符獲得に貢献したことは、すでに報道されている通りだ。
平野も2001年の世界選手権ディビジョンIの代表に14歳で招集され、スピードに富んだプレーを見せてきた。
2008年のバンクーバー五輪世界最終予選で切符を逃したあと、レベルアップの機会を求めて現在世界ランキング3位のフィンランドのリーグに移籍、1シーズン、プレーしている。帰国後は北海道苫小牧市の強豪クラブチーム、三星ダイトーペリグリンに入った。派遣会社に登録して電話会社のコールセンターで働いていたが、現在はスポーツクラブのインストラクターと、スポーツ用品店のアルバイトをかけもちして、週に6日、働いている。
アルバイトで働きながら、遠征費などを負担する選手たち。
日本代表で活動していくには、代表合宿や海外遠征で年間に数回、1~2週間の休みを取る必要がある。正社員になってしまうと、そのような休みは取れない企業がほとんどだから、アルバイトで働かざるを得ない選手が大半だ。
所属チームへの部費が、チームによって開きはあるものの年間10万円から20万円程度。また代表選手は海外遠征で5万円、国内合宿でも1万円を自己負担してきたから、社会人になると、アイスホッケーを続けるには、働いて稼ぐ必要に迫られる。チームを変わるたび、仕事も変わってきた平野は、女子日本代表の現状を物語っている選手だ。
第1、第2セットのメンバーの年齢を見ると分かるように、現在の代表チームは、ベテランと若手の組み合わせで構成されている。話題性も含めて注目したいのは、主将でもあるFWの大澤と、世界最終予選の時点ではまだ高校生だったDFの床だ。
この2人は、ともに父親が王子製紙と西武鉄道でプレーしていたアイスホッケー選手で、そろって日本代表選手でもあった。いわゆる二世選手だ。