世界一のランナーの経験を柔軟に吸収していく生徒たち。

「合宿中生徒も私も規則正しい生活のリズムが出来ています。ただ、夏の海外レースよりもはるかに長く家を空けることになるので、家族サービスができないのが残念です（苦笑）」

　合宿も含めた部活動で、世界一のランナーを顧問に持つ山岳部の生徒たちは、その経験を柔軟に吸収していくという。

「普段はあまり言わないんですが、遠征時の車の中などでレースの話をしますね。そうするとだんだんと試合前に調整をするということを覚えたり、食事でも動物性脂肪の摂りすぎに気をつけ始めたり。練習に対する態度も変わっていきます」

　だが、あえて言葉で伝えないこともあるという。

「メンタル面については、好きなようにやればとしていて、あまりうるさく言いませんし、技術的なことでも、一度は失敗させるようにすることもある。身体で経験することが何よりですからね。だけど最近はネットとかで僕のインタビューを読んだりして、レース中の補給の仕方や準備が上手くなってきているんです。だから、ちょっとムカついたり（笑）。1回くらいはハンガーノックも経験すればいいのに！って（笑）。でも、そういう生徒の成長は見ていて嬉しいし、『継続していると強くなる』ということを逆に生徒から教えられるんです」

「3年間山岳部でみっちり練習すると見違える人間になるんです」

　生徒の入部動機は、山に登ってキャンプでもしたい程度のものだという。だが、やれば強くなることを先輩が示し、最高のお手本が顧問として身近にいることで生徒が徐々に変わっていくという。

「練習では一緒に苦しんで、レースでは楽しむ姿を見せるようにしています。そして帰ってきたら報告する。それも仕事の一つかと。いつも一緒に同じことやっているので、いつか自分もこうなるんだろうなと自信にもなるかもしれない。入部当初はみんな本当に弱い。でも、3年間山岳部でみっちり練習すると、県でチャンピオンになっちゃうこともある」

　いつも笑顔を絶やさず、走り、教え、そして生徒からも教えられているヤマケンは、もしかしたら日本一仕事を楽しんでいる教師なのかもしれない。

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