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高校教師・山本健一 「先生は世界一のトレイルランナー!? トレーニングは授業と部活で」
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byMami Yamada
posted2012/11/09 06:01
直前までスキーの練習が中心だったUTMFで3位に。
一見ストイックな生活を送っているように見えるが、100マイル、160kmのレースを主戦場としている彼の練習内容は意外なものだった。
「レースでは160km走るけど、普段はそれほど長い距離は走りません。平日の練習は見ていただいた通りですし、日曜日は合宿や遠征がなければ朝4時に起きて8時か9時まで山へ走りに行くんですけど、どんなに長くても30km。ピレネーの前も長くて25kmじゃなかったかなぁ」
長い距離を走ると疲労がたまって、翌日以降に走れなくなってしまう。そのため普段の練習は短い距離で身体を追い込んでいくそうだ。
「UTMFでは、直前までスキーの練習が中心だったので良いパフォーマンスはできないと思っていたんです。タイムも気にしてなかったし、ピレネーも控えていたので足を痛めないように気をつけて走りました。下りでも飛ばさないようにしていたので、3位(日本人1位)に入ったのはホントたまたまなんですよ」
その「たまたま」という言葉が、彼のレーススタイルを理解する鍵になる。
「他人が走りにくいコースの方が僕向きなんです」
山本健一 1979年10月16日生まれ。2012年5月のUTMFで3位に入り、「次代を担う」と期待を集めるトレイルランナー。
◆走る距離と頻度は?
10~20km/週6回
◆始めたきっかけ
高校の山岳部で全国制覇を目指して。
◆ベストタイム
21:15:02(100マイル)
「ピレネーへの出場は1年前から決めていました。去年のウルトラトレイル・モンブラン(UTMB/世界最高峰の100マイルレース)が終わって、3回走れたから次をみようと思ったんです。そのときに知人のランナーからピレネーを勧められて。累積標高が1万mを超えますし、足下はガレ場ばかり。でも、他人が走りにくいコースの方が僕向きなんです。亀さんのように(笑)、じっくり、じっくりいきました。まさか優勝するとは思っていませんでしたよ」
数々の実績を残しているが、レースで結果を狙いにいくことはないという。
「結果を狙いにいくと力んでしまう性格なんです。そうすると力を発揮出来ないじゃないですか。練習とスタート前のコンディショニング、そして準備で順位はだいたい決まってしまうものなので、試合はとにかく楽しむんです。サポートしてくれている人もそれを分かっているから僕に順位を全く言わない。だから、ピレネーでもレース後半までトップだということを知らないまま走ってました」
160kmもの長丁場を走り抜くにはレース中の補給も重要な要素になってくるが、レース直前から彼は徹底している。余分なエネルギーを消費しないように食事とトイレ以外はただひたすらベッドで横になる。スタート前には全身にテーピングを施すこともあり、一度、レースが始まればカロリーを補給するためのエナジージェルを30分おきに必ず摂取し続ける。何がそこまでさせるのか。