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首位・日ハムの陰に師弟ドラマあり!
勝負の9月に輝く“栗山チルドレン”。
text by
加藤弘士Hiroshi Kato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/09/26 12:00
9月17日の札幌ドーム、オリックス戦。試合後、杉谷拳士(左)を出迎える栗山監督。代打起用に見事に応え、貴重な決勝タイムリーを放った21歳の活躍を称えた。
スポーツキャスター時代から注目していた杉谷。
「栗山チルドレン」が躍動できる背景を探っていくと、そこには指揮官の細やかな目配り、気配りがプラスの効果を生み出していることに気づく。「お前に任せた」「お前に期待している」という思いであり、言葉だ。杉谷は栗山監督の印象を、こう語ってくれた。「熱い人です。この人のために頑張ろう、やらなくちゃって、自然に思えてくるんです」
スポーツキャスターだった栗山監督は、帝京高時代から杉谷に注目していた。取材者として訪れた昨春の名護キャンプでは、テレビ朝日系「報道ステーション」のスポーツコーナーで、「ぜひ紹介したい選手がいます」と“規格外の男”として、杉谷をフィーチャーしている。「大声を上げて打つ」という元気抜群のプレースタイルを絶賛したのだ。
昨年11月。栗山監督が就任して初めて取り組んだのは、全選手との個人面談だった。杉谷にはこう語りかけ、4年目のシーズンへ奮起を促した。「お前と一緒にやるのは、運命的なものを感じるよ」
メディア人として培ったフットワークを生かしチーム全体に目配り。
28年前にドラフト外でヤクルト入りした指揮官と、ドラフト6位の杉谷とは、同じ右投げ両打ちの「雑草」という共通項がある。今春の名護キャンプ。栗山監督が初めてマンツーマンの個人指導を「解禁」したのも、杉谷が相手だった。スイッチヒッターの心得を「右は右、左は左、別の人格になって打席に向かうことが大事だ」と説いた。
9月17日の札幌ドーム、オリックス戦。同点の8回1死三塁、代打で登場した杉谷は、右前へと決勝タイムリーを放ち、期待に応えた。ベンチから打席に送り出した栗山監督の瞳は、心なしか潤んでいるように見えた。
試合前練習でプロ野球の監督は、打撃ケージの後ろに陣取り、評論家らと会話しながら自軍のバッティング練習を見守るのがオーソドックスなスタイルだ。栗山監督は違う。グラウンド内を1カ所に止まることなく、歩き回る。レギュラーも控えも、ベテランも若手も、あるいは裏方のスタッフも。分け隔てなく話しかけ、「取材」する。メディア人として培ったフットワークの軽さが、プラスに機能しているように感じる。