Sports Graphic NumberBACK NUMBER
<“五輪から3カ月”特別連載(1)> モーグル・伊藤みき 「ソチ五輪に向けた最初の滑走」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2010/05/17 06:00
「決勝は、始まりの一本にしようと思って滑っていた」
決勝のレースを終えてミックスゾーンに現れると、すぐさま、問われぬままに言った。
「ソチを目指して、これから4年間、頑張ります」
終わった瞬間、すぐに先を見据えた言葉が飛び出した。その真意を、こう説明する。
「私がオリンピックでやりたかったのは、4年間のベストの滑りでした。そこまではいかなかったので悔しい気持ちは残ります。でも、公式練習も含めて、あの日のベストの滑りを決勝で出せたのはよかった。もちろん結果はほしかった、メダルはほしかったけれど、これはしかたないことです。そのうえで、決勝は、始まりの一本にしようと思って滑っていたから、『ソチを目指して』という言葉が出てきました」
4年間目指してきた大会での滑りと結果、大会までの過程。どちらも、思っていたとおりにはいかないシーズンだった。
怪我に泣かされた悔しさと、試練を乗り越えた充足感と。
だから、こんな言葉も口を突いた。
「怪我で練習もあまりできていなかったし、なんでこの時期にあほみたいな怪我するん、という憤りを自分に感じて生活していましたね」
「ほんとうは自分が主人公のはずなのに、応援してくださる人たちに申し訳ないと思っていたところがありました。もちろん、応援してくださる方々がいての競技ですが、もっと自分を軸にやれるところはあったかなと思います」
だがそうした、ある種、苦い思いを味わったことは、これからの糧になるはずだ。結果を出そうと本気で勝負に行って、周囲の目もひきつける中で今までにない経験をした。気づいたこともたくさんあった。五輪シーズンの重さをあらためて知ることもできた。
伊藤も、「試練の多いシーズンだった」と振り返る一方で、こうも言う。
「かけがえのないシーズンでした」
「4年後の自分は、がつがつしていてほしいですね」
そして、あらためて、4年後へ向けての抱負を語った。
「自分のやろうとしていることは間違っていないという計画を立てたいし、自信をもって4年をすごしたいですね。4年後の自分は、がつがつしていてほしいですね。コースの上では誰にも遠慮せずに暴れてほしいなと思います」
かけがえのないものを得て、再びオリンピックを目指しての歩みが始まった。
その先に、世界一楽しむ自分が、待っているかもしれない。