MLB東奔西走BACK NUMBER
不振の今こそもう一度確認したい、
常識外れの“イチロー・スタンダード”。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/06/15 10:30
イチローのバットが空を切る。6月7日のホワイトソックス戦では4打数無安打に終わり、打率は2割6分となった
つい数週間前のことだ。こちらのスポーツ専門TV局ESPNのニュース番組で開始前の交流戦について特集している時のことだった。その中でイチロー選手を取り上げていて、そこで彼らがイチローを“struggling(苦闘している)”と表現しているのを聞いてちょっと驚いた。
交流戦が始まる頃のイチローは多少調子が落ちてきたとはいえ、打率は依然として3割以上を維持していた。イチロー以外の選手だったなら、たぶんそんな表現は使わなかっただろう。改めてイチローがこの10年間で築き上げた“イチロー・スタンダード”の基準の高さを思い知らされた。
過去10年間見たことのない、不振のイチロー。
だがESPNの推測は正しかった。
すでに日本でも報じられているように、5月の月間打率は過去最低の.210に終わり、6月に入ってもその月間打率(6月6日現在)は1割台にまで下がっている。
昨年9月にイチローについて考察した際、各シーズンの月間打率を表にまとめているのだが、過去のイチローは5、6月を決して苦手にしておらず、むしろ安打を量産している好調の月だった。現在の彼は明らかにこれまで10年の間に見せたことのなかった姿なのだ。
2009年の胃潰瘍以外で故障者リストに入ることもなく、当たり前のように数字を積み重ねてきたイチロー。彼を見続け、ファンもメディアも前述のイチロー・スタンダードが永遠に続くものだと思い込んでいた部分があった。だがイチローであっても否応なしに年齢を重ねているのだ。それは現在、イチロー以上に苦闘が強いられている松井秀喜選手にも言えることだ。
改めてイチローをメジャー球界全体で考察してみると、10年連続200安打達成という数字以上に、イチローの存在そのものが“奇跡”であり“常識外”なのだと気づかされる。
2001年以来イチローは不動の1番打者であり続けた。
これだけの長い期間同じチームで1番を任されている選手など存在しない。