チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
「弱者が勝てない」CLに見た
サッカーの明るい未来。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byGetty Images
posted2009/06/30 06:01
スーパースターの個人技で勝てるほど甘くはない。
ビッグクラブにはもちろんスター選手が数多く存在する。中には監督の指示とは裏腹なプレーをしたがる選手もいる。しかし、その数は近年、死滅したと言っていいほど減少している。
バルセロナのグアルディオラ監督と、マンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督は、今季の決勝戦でそれぞれメッシとクリスティアーノ・ロナウドをセンターフォワードで起用した。
両者はスーパースターだ。しかし、それはボールを持っているときに限られる。相手ボールのときには、スーパースターではない。悪く言えば、誰よりも困った存在になる。その守備力はチームの中で最も低い。
そんな特徴を持つ両者をどこで起用したら、チームに穴はできないか。
普段、出場機会の多いサイドには、攻め上がりを狙うサイドバックが虎視眈々と構えている。一方、センターバックの2人が上がってくる確率は低い。そこにチームで最も守備力の低い選手をぶつければ、チームに穴はできない。メッシやC・ロナウドにセンターフォワードが務まれば、チームは丸く収まる。両監督はそう踏んだに違いない。
「相手がどうあれ、我々はいつも通りのサッカーをするだけです」とは、日本の指導者がよく用いる台詞だが、それではチャンピオンズリーグは戦えない。相手を研究し、対策を立て、選手にそれを実行する力がなければ、勝ち上がるのは不可能だと言える。
ピッチの上にスター選手をどのように並べれば穴ができないか。総合力を高めることができるか。ポイントはこれ以外にない。サッカーゲームの進め方に大きな問題を抱えるビッグクラブが、スーパースターの個人技によって救われたという試合を、僕はあまり見た記憶がない。良いサッカーをしたチームが勝つ。とくに最近その傾向が強くなっている。
年を追うごとに進化するCLにサッカーの未来が。
では、良いサッカーとはどんなサッカーか。
考え方はいろいろあるが、少なくとも僕は「ピッチに描かれるデザインが美しいこと」と答えたい。俯瞰したとき、どちらが鮮やかか、どちらがきれいか。それと効率性とは、とても深い関係にある。
うれしいことに、チャンピオンズリーグの舞台で披露されるサッカーは、年々、美しさを増している。番狂わせは減ったけれど、見た目は鮮やかになっている。僕の観戦歴は長いけれど、昔は良かったと思う機会は少ない。
サッカーは進歩している。チャンピオンズリーグを見ていると、サッカーという競技に、明るい未来が感じられるのだ。