チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
「弱者が勝てない」CLに見た
サッカーの明るい未来。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byGetty Images
posted2009/06/30 06:01
チャンピオンズリーグの醍醐味は? とたずねられたとき、僕はいの一番にアウェーゴールルールと答える。
以前このコラムでも述べたが、ホーム&アウェー戦を演出する小道具として、サッカーのエンタメ性を倍増させる小道具として、そして選手の能力を高める小道具として、これほど見事な役割を果たしているモノもめずらしい。
1点が1点の価値でなくなる瞬間こそが、最大の醍醐味だ。同点弾ではなく、逆転弾に値するゴールが生まれる瞬間である。「ソロホームラン」ではなく「逆転2ランホームラン」。エンタメ性は最高潮を迎え、サッカー観戦はまさに2倍楽しくなる。
アウェーゴールルールはリーグ戦にも反映されるが、分かりやすいのは決勝トーナメント1回戦以降の戦いだ。準々決勝、準決勝の戦いをホームとアウェーとセットで観戦すると、チャンピオンズリーグの魅力は鮮明になる。
90分の戦いではなく180分の戦いであるところも輪をかける。「後半戦」が始まるのは1、2週間後。監督には分析能力を発揮する機会が与えられている。監督の的確な采配なしに、勝利を飾ることは難しい。
戦術が重要視されるCLはスター監督がうまれる舞台。
チャンピオンズリーグは、優秀な監督が生まれる舞台と言っても過言ではない。監督をスターにする舞台と言うべきかもしれない。主役は監督、選手はコマ。サッカーゲームの戦い方の重要性は、いっそう浮き彫りになる。
かつては番狂わせが多く発生した。弱者でもゲームの戦い方で優れば、スター選手で固められた強者をよく破ったものだった。ところが最近、その数は激減している。強者も戦術にこだわり始めたためだ。選手のポテンシャルが高いチームが穴のないチームを作り上げれば、弱者のつけ入る隙はなくなる。
番狂わせが減ったという事実、強者が順当に勝ち上がる傾向が増している現実に、僕などは不満を覚えるクチだ。日本という小国のライターには、小さなクラブが大きなクラブを倒す姿に夢やロマンを感じるからだが、それは戦術の重要性が世界的に浸透していることを示す事実でもある。
もっとも、強者と弱者は常に存在する。最近のチャンピオンズリーグは限られたチームの中で優勝が争われているが、それらのチームの間にも微妙な上下関係が存在する。そしてそれもまたシーズンごとに微妙に変化する。
たとえば、バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッドの一戦は、常に1位対2位の戦いになるわけではない。5位対6位になる場合もあれば、1位対6位の場合もある。そうした意味では、番狂わせは常に存在するのだ。番狂わせというより逆転と言うべきかもしれないが、ビッグクラブの目まぐるしい攻防の中で、戦術は最も重要なキーワードとして存在している。ゲームの進め方に誤りがあるチームに優勝はない。