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アイルランド戦金星の6日前「流は静かな興奮を覚えた…」ジェイミージャパン“地図のない冒険”を辿って【連載・桜の真実2019 序章】

2023/10/19
日本開催のラグビーW杯を終えて記者会見をした日本代表の面々
開幕戦でロシアを破り、迎えたプールAの大本命と目されたアイルランドとの一戦。ボールを蹴るのか、それとも、回すのか――。大一番を前に日本代表首脳陣は、如何にして戦術を決断したのか。「アイルランド・ウィーク」の真相を描く。(初出:Number PLUS 完全保存版 ラグビーW杯2019 桜の証言。[深層ドキュメント]桜の真実 2019 ジェイミージャパン 地図のない冒険。)

「アイルランド戦は……ポゼッションを重視すべきだと思うんだが」

 アタックコーチのトニー・ブラウンからジェイミー・ジョセフをはじめとしたスタッフに提案があったのは、9月6日に埼玉・熊谷での南アフリカ戦が終わってからだった。

 2016年にヘッドコーチに就任して以来、指揮官ジェイミーが唱えてきたのはキックによって生まれる「アンストラクチャー」、すなわち混沌局面を制することで得点機を演出するというプランだった。

 しかし、その戦略の浸透には時間が必要だった。’16年秋のフィジー戦では、キックからのカウンターが得意なフィジーに対し、わざわざキックで餌を差し出し完敗。’18年6月のイタリアとのテストマッチまでアンストラクチャーが完全に機能したとは言い難く、選手たちの間でも、「本当にこれでW杯を戦えるのか?」と疑念が囁かれていた。

Hiroyuki Nagaoka
Hiroyuki Nagaoka

 ようやくジャパンが反攻に転じたのは、’18年11月のテストマッチからだった。ラグビーの聖地トゥイッケナムでエディー・ジョーンズ率いるイングランドと戦い、前半をリードして折り返すなど、一定の成果を上げた。そしていよいよW杯イヤーを迎え、7~8月のパシフィック・ネーションズカップ、そして9月の南アフリカ戦でもキックを主眼にした戦いを続けていた。それは本番への予行演習だと見られていた。

 しかし、プール第2戦のアイルランド戦を前にして軍師トニーはアンストラクチャーではなく、徹底的にボールをつなぎ、ポゼッションを重視する姿勢を鮮明に打ち出した。

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photograph by Yuki Suenaga

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