はるか100m先のブルペンからでも、はっきりバットが空を切るのが見えた。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝戦が行われた米・フロリダ州マイアミのローンデポ・パーク。マウンドの大谷翔平が、9回2死からマイク・トラウトを空振り三振に仕留め、日本が世界の頂点に立った瞬間だった。
スタジアムの左中間にあるブルペンから、侍ジャパンの投手たちが一斉にグラウンドへと飛び出す。それを見届けたブルペンコーチの厚澤和幸とブルペン捕手の鶴岡慎也、梶原有司の3人は、もぬけの殻となったブルペンで静かに握手を交わした。
先発の今永昇太と2番手の戸郷翔征がそれぞれ2イニング。そこから高橋宏斗、伊藤大海、大勢と1イニングずつ継投して8回にダルビッシュ有、最後は大谷と7人の投手を繋いだ必勝リレー。鶴岡はブルペンで入れ替わり立ち替わり投手の球を受け、次々とマウンドに送り出してきた慌ただしさを、いまは夢のように感じる。
「次から次に爆弾を渡していく。まるで爆弾ゲームみたいな感じでしたね」
鶴岡の実感だった。
「プロ野球でも7人も継投したら、誰か1人くらいは調子の悪いピッチャーが出てきてしまう。しかしその中で全員が投げるべきボールを投げ切って、相手打線を抑えてベンチに帰っていった。やっぱり凄いことだと思います」
大谷のクローザー登板が決まったのは当日の朝。
前代未聞の継投だったが、監督の栗山英樹と投手コーチの吉井理人の間では、かなり早い段階から練られてきたプランでもあった。ただダルビッシュと大谷のメジャーリーガー2人が決勝戦で投げられるかどうかは所属球団の許可が必要で、ギリギリまで決まらなかった。そこで首脳陣は決勝直前まで2人がいないパターン、ダルビッシュだけが投げられるパターン、そして2人が共にマウンドに上がれるパターンと3通りの継投策を練らねばならなかったという。
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