コイツ、何してんだよ。
背を向けたままライトへヒュッとトスを上げる。清水邦広には、その1本があまりにふざけた、いい加減なプレーに見えた。
メンバーも一新され、合宿も始まったばかり。代表に入った直後で、いいところを見せようと思ったのかもしれないけれどここはガツンと言わないと。清水は、トスを上げた18歳の石川祐希を呼びつけた。
「トスは身体を向けたほうに上げろよ」
ただ気に入らなかったから雷を落としたわけではない。石川が初選出された2014年、当時のチームではセッター以外の選手がトスを上げる際は、身体が向いた方へ丁寧にゆっくり高いトスを上げるのが決まり事だった。だから、石川がトスを上げる際、自分に背を向けたままボールの落下点に入るのを見て、清水も「自分に(トスは)来ない」と判断して攻撃に入る速度を落とした。清水に限らず、他のアタッカーもそう。にもかかわらず、そこにトスを上げてくるのが石川だった。
「ジャンプして速いトスを上げたり、それまでの決まり事とは違うことをするから、せっかくのブレイクチャンスでトスが合わなくて、コンビミスで失点になることが多かったんです。まだ練習だからいいけど、試合で同じことをしたらもったいない。だから当時は、『ふざけんな、余計なことすんなよ』みたいな気持ちでしたね」
大学1年生で日本代表に選出された石川に対し、清水も大学3年時の2007年に初めて日本代表入りを果たした。もしも当時、自分が先輩から同じように叱責されたら「ビビッて何もできなくなる」と笑うように、若かりし頃は先輩や監督に言われたことをいかに遂行できるか。素直にやればやるほどチームに馴染めると思って、何も考えず、ただ実践するのが当たり前だった。
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