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「とにかく止まらんようにと…」箱根駅伝の青学大“神のいない山”に挑んだ無名のランナーを襲った“まさかの異変”「結局、誰にも言えなかったですけど…」 

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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posted2026/01/06 11:01

「とにかく止まらんようにと…」箱根駅伝の青学大“神のいない山”に挑んだ無名のランナーを襲った“まさかの異変”「結局、誰にも言えなかったですけど…」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2017年の箱根駅伝で青学大初の3連覇に向けて往路優勝のゴールテープを切った貞永隆佑。その道中、貞永に起きていた“まさかの異変”とは…?

 天下の険を軽快に駆け上っていた貞永に「異変」が起きたのは、16キロ付近の最高標高点を過ぎたあたりでのことだった。

 長く続いた上りの走りを終え、残るは芦ノ湖畔までの下り坂だけだ。ここまでは区間上位のタイムで走れていることがマネージャーからの声掛けで分かっている。“つなぎの5区”には十分すぎる快走だった。

 だが、そんな貞永に「箱根の魔物」が襲い掛かった。

突然、身体に起こった“異変”…「抜かれるかもしれん」

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 ふと、自分の身体に違和感を覚える。頭の中はこれまで同様ハッキリしている。だが、なぜだか下りに入って急に身体が動かなくなった。一度その異変に気付いてしまうと、状況は加速度的に悪化していった。

「箱根って何年かに1回、山上りで棄権とか、フラフラになるランナーが出るじゃないですか。自分もテレビで何度も見ていて……僕、あれになると思ったんです」

 いつもの「しんどい」とは明らかに違う。呼吸はまるであがっていないのに、次第に脚に力が入らなくなっていった。何とか身体を動かそうとしても、まるで空中でもがいているかのように空回りする。そんなことは、長い陸上競技人生の中でもはじめてのことだった。

「多分、軽い低体温症とかだったんだと思います。そのうち、とにかくもう止まらんようにだけは……と考えるようになって。頂上から下りよる最中は……もう、ヤバいと思いました。上りよる時は後ろと差が開いていると聞いていたので、『このままいけるな』という感覚があったんです。でも最後、後ろと40秒差とかになって『これ、抜かれるかもしれん』と思いながら走っていました」

 それまで丁寧に取材に応じてくれた貞永から、思わず漏れた広島弁に当時の“恐怖”が透けて見える。

 アクシデントの最大の原因は、この年、箱根山中で吹いた強風だった。

「もちろん箱根という大舞台での緊張もありました。でも、とにかく一番は風です。前半いいペースで走れて身体が動いていた分、最高点を過ぎての下り坂で受けた強風で、それが一気に冷やされた。筋肉が動かないんじゃないんです。身体に力が入らない」

 それまでじりじりと、詰まっては広がるを繰り返していた後続との差が、わずか1キロ強の間に一気に30秒近くも詰められた。原監督が乗る監督車からは「明日のために、1秒でも早く」と声がかかる。その声もハッキリ聞こえていた。だが、貞永の意思とは裏腹に、身体はどうしても動いてくれなかった。

【次ページ】 圧勝で箱根3連覇&3冠達成も…「悔しさが大きかった」

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