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“清宮幸太郎の弟”が22歳で現役引退「自分で決めたこと。未練はないです」…六大学ラストゲームで「どうしても打ちたかった」“涙の最終打席”秘話
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清水岳志Takeshi Shimizu
photograph bySankei Shimbun
posted2025/12/05 11:00
六大学野球リーグの最終戦で大学生活最初で最後となるヒットを放った清宮福太郎。大学で野球は引退するという
その成果があったかどうかは定かではないが、3日後の試合で福太郎は結果を残す。奇しくも大学での最後の打席だった。
「1本のヒットを打ってほしい」と身内やチームメイトからこれだけ待たれた選手はそうそういないのではないか。
安部寮でのインタビューで、彼は自らもこう言っていた。
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「ヒット1本、絶対に打ちたいんです」
大学ではここまで4年間、ノーヒット
それまで春のシーズン2度、秋は3度。これまで六大学リーグで立った5回の打席はすべて凡退だった。迎えた11月2日、早慶2回戦の8回裏。福太郎が代打で登場した。ちなみに今年、球場で代打など名前をコールされたとき、一番、声援が大きく、盛り上がったのは福太郎だった。
「緊張はしていませんでした。狙い球もなく初球から積極的に打ちに行こうと。真ん中高めのストレートだったと思います。(詰まりながらライト前への打球で)落ちろ、落ちろと心の中で思いながら走っていました」
試合後の電話取材ではそう答えていたように、福太郎の願い通りに右翼手の前に打球が弾んでヒットになった。
一塁ベース上でベンチを振り返ると、ナイン全員が両手を上げて喜んでいる。福太郎は右手で小さなガッツポーズをして応えた。
代走を告げられベンチに戻っていくと、数人が前に出て待ち構えている。彼らの眼には涙があふれていて、それを見て本人もこみ上げるものがあった。
「みんなの涙を見て、自分も泣いてしまいました。ほんとによかった。喜んでもらえて嬉しかったです」
主将の小澤周平はその回の攻撃が終わるまで目をぬぐっている。ナインはそれほど、そのヒットを幸せに感じていたのだ。
これほど愛されたのには理由がある。

