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高校駅伝9年前の奇跡「主将が怖くて喜べなくて(笑)」…“廃校直前”離島の「普通の公立校」が県大会11連覇の強豪私立に圧勝→全国大会に行った日 

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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posted2025/11/04 11:02

高校駅伝9年前の奇跡「主将が怖くて喜べなくて(笑)」…“廃校直前”離島の「普通の公立校」が県大会11連覇の強豪私立に圧勝→全国大会に行った日<Number Web> photograph by 取材対象者提供

廃校が決まっていたため、小豆島高校として「最初で最後」の全国高校駅伝出場を決めた瞬間。メンバーはほぼ島内出身者で、まさに快挙だった

 監督の言葉の理由は、シンプルな「部員不足」だった。

 その時点で部員数が駅伝に必要な7人に満たず、新年度に入部してくる1年生次第という状況だったからだ。仮に人数がそろったとして、1年生が主力を担うということは、当然それだけ戦力の低下が起きうる。

 各地の例にもれず、小豆島にも少子化の波は訪れていた。

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 そもそも離島ゆえ、普通の地域と比べても高校進学などを機に本土に出ていく学生も多い。普通ならもっと早く危機が訪れていてもおかしくなかった。だが、ちょうどそんなタイミングで真砂たちが優勝したことで、上述のように逆に島外からの選手が入ってくるケースが増えた。結果的にそれがピンチを後ろ倒しにしていたのだ。

 ところが、今度は小豆島中央は「強くなりすぎて」しまった。

 絶対王者になった小豆島中央に対して、本土の中学生たちの中に、かつての真砂や増田のように「小豆島中央を倒すために別の高校に行きたい」という選手が出てきたのだ。結果的に、少しずつリクルーティングにも影響が出はじめた。

 そして、その小さな歪みは初優勝から9年の時を経て、とうとう無視できないレベルにまで広がってしまった。

10連覇を目指した今年の県予選…ついに途切れた優勝

 そして、2025年11月2日。10連覇を目指した香川県高校駅伝で、小豆島中央は敗れた。

 結果は5位。メンバーは1、2年生だけの8人――しかも半数以上は1年生という若い布陣では、致し方なかったとも言える。21年ぶりに優勝した四学香川西とは、実に10分以上の差をつけられる完敗だった。

 こうして、小豆島の10年間に渡る冒険は一旦、幕間を迎えることになった。

 ただ、それでも真砂や増田、向井たちの活躍が残したものは大きい。

 いま、箱根駅伝ファンにとって、小豆島中央という高校の名前は決して珍しいものではなくなっている。その理由は、彼ら以降に多くの後輩たちが駅伝の名門大学へと進学し、箱根路を駆け、実業団でも活躍を見せているからだ。

 この未来は、彼らの「奇跡」なくしてありえないことだった。

 その立役者の一人となった増田は、前述のように未だ現役を続けている。母校が敗れた翌日、11月3日の東日本実業団駅伝では、自衛隊体育学校チームの1区を担い、力走を見せた。

「やっぱりまだ自分に可能性を感じるというか、記録も伸ばせると思っています。その気持ちがあるうちは走ることは続けたいなと。とにかく自分で足りないところを考えて、主体的にトレーニングをして――あの高校時代に学んだことが、今に至るまで生きていると思いますから」(増田)

 上述のように現在の小豆島中央は、1、2年生だけの若いチームでもある。かつて真砂たちが描いた夢物語も、始まりは似たようなところからだったはずだ。

 島が見る夢は、きっとまだ終わっていない。

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「廃校直前」離島の普通の公立校が“県大会11連覇”絶対王者を破って全国高校駅伝に出場した「まさかの実話」…9年前“小豆島の奇跡”はなぜ起こった?
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