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「ウチも丸刈りの方が良いんじゃないか」全国高校駅伝を目指した“離島の公立校”に起こった「髪型事件」…“普通の部活”が全国を目指すリアルとは?
posted2025/11/04 11:01
後に小豆島高校として、最初で最後の全国高校駅伝出場を決める陸上部のメンバーたち。一方で、快挙までの道筋は決して簡単なものではなかった
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別府響Hibiki Beppu
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取材対象者提供
2015年の春、向井悠介は地元・香川県の小豆島高校の門をくぐっていた。
小豆島は壺井栄の小説『二十四の瞳』の舞台としても有名な、人口2万5000人ほどの島である。向井は、その島で生まれ育った生粋の小豆島ボーイだった。
一方で、向井はそんな小さな島に似つかわしくないほど、大きな陸上の才能を秘めていた。
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前年度の全中では3000mで7位入賞。全国でもトップクラスの実績を残し、この時破った相手の中にはのちの高校駅伝や箱根駅伝で活躍したランナーたちも多かった。
当然、大げさでなく日本中の駅伝強豪校から声がかかった。
だが、向井は最初から生まれ育った島の公立校に進学することを決めていたという。
「陸上だけで進学――というのは最初から全く考えていなくて。普通に勉強もできる学校に行きたかったんですよね。あとは当時の小豆島には結構、強い先輩たちもいたので」
向井が言う「強い先輩」というのが、1学年上にいた真砂春希や増田空のことだった。
彼らはともにその世代の香川県トップクラスのランナーで、縁あって小豆島高校に入学していた。
加えてもうひとつ。向井の頭の片隅にあったのが、小豆島高校が近く廃校になるというウワサだった。
「厳密に時期が決まっていたわけではないんですけど、数年のうちには隣の学校と合併するのは『ほぼ決まり』みたいな状況で。昔からある学校でしたから、その意味でもちょっと寂しいな……というのはありました」
廃校直前で…全国大会出場はドラマチック!
生まれ育った地元で愛される学校だ。親族の思い入れも深い。
その有終の美として、自分が陸上で活躍したい。もっと言えば、全国ネットでのテレビ放送もある全国高校駅伝にでも出場できれば、こんなにドラマチックなことはない。幸運にも、たまたま先輩には強いランナーもそろっている。そんな要因も向井の小豆島高校への進学を後押ししていた。
ところがそんな思いで入学した向井を待っていたのは、予想外のチーム状況だった。
端的に言えば、向井が入部した当時の小豆島高校陸上部の長距離チームは――目指す方向が定まらず、空中分解しかけていた。

