「ウチも丸刈りの方が良いんじゃないか」全国高校駅伝を目指した“離島の公立校”に起こった「髪型事件」…“普通の部活”が全国を目指すリアルとは？ 

　発端となったのは、2年生ながらキャプテンになった真砂だった。

　当時、小豆島の陸上部には3年生がおらず、真砂がキャプテンの任についていたのだ。

「1年目の駅伝で、尽誠学園にコテンパンにやられて。これじゃ何年経っても全国なんていけるわけないと感じたんです。それまでは僕の学年も皆、『3年目までに運が良ければ全国に出られるんじゃないか』というくらいの感じだった。でも、そうじゃなくてこの年から本気で狙わないと……と思ったんです」

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　もちろんこれまでも練習は皆、全力でやっていた。だが、それをどこまで突き詰めるかの問題である。

　たとえば練習への遅刻や欠席に、ペナルティを設けるのかどうか。設定タイムを切れなかった時に、叱責は必要なのか。真砂は部の空気感を、全国の強豪校のレベルまで引き上げようと、とにかく自分にも他人にも厳しく当たるようになっていた。

「もちろん陸上競技なので、個人で頑張ればいいという考えもあると思います。でも、増田や向井だけじゃなくて、運よく他にも力のある選手が部にいた。これだけの部員がいるなら、尽誠に勝てる可能性が十分あった。それなら駅伝で上を目指したい気持ちがあったんです」（真砂）

当初はやる気が空回り気味だったという真砂　©NumberWeb

　真砂の主張は、陸上競技に打ち込むランナーにとっては至極、当然のものである。

　ただ問題は小豆島高校というチームが、離島の公立校の「普通の陸上部」だったことだ。

　部員はほぼ全員が島内の生徒で、もちろんスポーツ推薦などあるわけもない。私学の強豪陸上部とは違い、そもそも多くは陸上競技に青春を懸けるつもりで来ていないのだ。

　誰もがスポ根物語を肯定するわけではない。

　結果的に、真砂の主張に賛同する部員と、内心あまり賛意を持たない部員の間に微妙な温度差が生まれていた。中には部を離れる部員まで出はじめていた。

普通の部活か、強豪か…衝撃の「髪型事件」

　1年生だった向井がこの頃の記憶で思い出すのが「髪型事件」である。

「たしか真砂さんを中心にした先輩たちが『ウチも強豪校みたいに丸刈りにした方がいいんじゃないか』と言い出して。何回もミーティングをして、めちゃくちゃ紛糾しましたね。僕は小豆島には小豆島のスタイルがあると思っていたので、絶対反対だったんですけど（笑）」

　結局、この時は荒川雅之監督による「そこまではやらんでいいだろう」という大岡裁きで事なきを得た。だが、かように部の雰囲気が“普通の陸上部”と“強豪チーム”の間で揺蕩っていたのがこの頃だった。

　一方で、向井の言うこの「ミーティング」が、少しずつチームをまとめ始めるきっかけにもなっていった。

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