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「ウチも丸刈りの方が良いんじゃないか」全国高校駅伝を目指した“離島の公立校”に起こった「髪型事件」…“普通の部活”が全国を目指すリアルとは?
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別府響Hibiki Beppu
photograph by取材対象者提供
posted2025/11/04 11:01
後に小豆島高校として、最初で最後の全国高校駅伝出場を決める陸上部のメンバーたち。一方で、快挙までの道筋は決して簡単なものではなかった
そんな中で、練習の大半を占める普段のジョグでは島の観光名所でもある「寒霞渓」を活用するようになった。
寒霞渓はその名の通り、アップダウンの激しい渓谷である。観光用のロープウェイが通るほどの標高差は、ランナーにとって非常にキツいコースである一方、脚力づくりにはもってこいの環境だった。普段の各自ジョグは場所も時間も自由だったが、夏頃からはなんとなく皆で、その厳しいコースを走ることが日課になっていったという。
また島には陸上競技場がなかったため、ポイント練習と言っても普通の土の校庭で「300mくらいの変な形の、めちゃくちゃ走りにくいトラック」(真砂)でインターバルなどを行っていたのだが、それに加えて月に1~2回は週末に1時間かけて船で本土まで出向き、トラックでのスピード練習も行うようになった。
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そういった様々なトレーニングを経て、少しずつチーム全体の走力も充実していった。
人間、不思議なもので練習がタイムに反映されるようになってくると、厳しいトレーニングも徐々に楽しくなってくる。これまでは真砂らに「やらされている」だけだった部員たちも、少しずつその熱に感化されていった。
そして、徐々に力を蓄えつつあったチームにとって最大の転機となったのが、真砂や増田にとって2年目の11月、県大会以降の駅伝レースである。
「成果」が出始めた、2年目の高校駅伝県大会
前年は5分以上の大差をつけられて王者・尽誠学園に敗れていた小豆島。
スーパールーキーである向井が入学したとはいえ、まだ1年生である。主将の真砂にしても「正直、勝てるとしても可能性は3割くらい」と考えていた。
実際のレースではエース区間の1区を任された向井が尽誠学園の3年生エースと13秒差の2位で好スタートを切ると、その後も各区間で少しずつ差を広げられたものの、各ランナーともに大崩れすることはなかった。結果こそ絶対王者に11連覇を許したものの、その差は約1分。前年から比べれば、驚異的なジャンプアップだった。
しかも3年生が主体だった尽誠学園に対し、小豆島のメンバーには1、2年生しかいない。客観的に見ても来年は優勝候補の筆頭に挙げられておかしくないレベルになっていることを、自分たちで実感できた。
加えて、真砂によればこのタイミングでもうひとつ大きなきっかけがあった。
この年、全国高校駅伝は5年ごとの記念大会だったため、各県大会の優勝校に加えて、各ブロックから県代表以外の最上位校が選出されるチャンスがあったのだ。小豆島も四国ブロックの代表を狙って四国大会へと参加していた。
「他県の代表校のレベルを考えると、正直、かなり行ける可能性はあると思っていたんです」
ところが、チームはわずか「8秒差」でその切符を逃してしまう。
ただ、この2つの敗北は結果的にチーム大きなプラスをもたらすことになる。
県大会の絶対王者に肉薄するほどの成長の実感と、ブロック大会でほんのわずかの差で全国大会を逃した悔しさ。期せずして小豆島が、一気に2つの強力なモチベーションを手にすることになったからだ。
そして、ここから小豆島は加速度的に進化をみせていくことになる。
<次回へつづく>


