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両親に「陸上はいいけど、婚期を逃すのだけはやめてね」と言われ、中学生で“30歳引退”を決意…森智香子30歳が明かす「それでも引退を撤回した理由」
posted2023/08/13 17:02
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Nanae Suzuki
インタビュー最終回の本記事では、2017年の日本選手権3000m障害での優勝とその後の「長いトンネル」、そして「引退に関する決断」について本人の言葉とともに振り返っていく。(初回からは#1、#2へ)
2017年日本選手権優勝後に待っていた「トンネル」
「一番は良いなと思いましたね(笑)。ほんのちょっとの差なんですけど、2位と1位じゃ景色が違うなって改めて思いました」
2017年の日本選手権3000m障害での優勝インタビュー、森智香子は涙を流して勝利の味を噛みしめた。積水化学に入社した1年目は2位、2年目は最後に抜かれてまたも2位に終わった。その悔しさを忘れず、厳しいトレーニングにも耐え、3年目でようやく“てっぺん”に立った。そこの景色は格別で、みんなの注目が自分だけに集まり、「世の中の中心が自分だ」と思えてしまうほどの全能感を味わった。
しかし、この優勝後、森は長いトンネルに入っていく。
同年、冬に故障し、実業団に入って初めての長期離脱を余儀なくされた。翌18年の日本選手権は連覇が期待されたが、6位に終わった。
オーバートレーニング症候群の診断を受ける
それ以降、森は練習がほとんどできなくなった。12000mのペース走では、平常時なら20km以上走れるペースなのに3000m程で皆と離れてしまっていた。貧血が疑われ、血液検査をしたが異常はなかった。森自身も走れない原因が分からず、野口英盛監督と相談して合宿を切り上げ、寮に帰った。合宿日程後の帰省を挟み、夏のアメリカのボルダー合宿から合流することになっていた。
しかし状態が回復せず、友人に不安を吐露した森は国立スポーツ科学センターで診察を受けてみるように勧められた。
そこで医師から、「オーバートレーニング症候群」と告げられた。
引きこもり状態の森に「うちに来いよ」
「血液検査などを受け、症状として『夜眠れない、起床時の脈が通常40から60に上がっている』など、全部がオーバートレーニング症候群に当てはまると言われました。驚いたんですが、なぜ自分が走れなかったのかが分かって、少しホッとしました」