- #1
- #2
野ボール横丁BACK NUMBER
「コイツは何者だ?」“無名の天才ピッチャー”に聖光学院部長が絶句した…「特待生、決まったよ」母親のウソから始まった岡野祐一郎(元中日)の逆転人生
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2025/10/18 11:05
中学時代は補欠、聖光学院でエースになった岡野祐一郎
「B戦に先発させたら、いきなり1-0で抑えちゃったんだよ。『誰? コイツ』って。そこから、けっこうすぐAチームに上げましたよ。1年生はだいたい夏まではBチームなので、そんなやつは普通いないんです」
そう言ったあと、横山は右手でボールを握る形をつくり、こう付け加えた。
「あいつは神様がいるから。指先に」
ADVERTISEMENT
それくらいコントロールが抜群だという意味だった。岡野が笑いながら思い出す。
「部長に『おまえはビースだ』って言われたのは覚えてます。聖光ではAチームのエースにかけて、Bチームのエースのことをそう呼ぶんです」
大崩れしない投手として貴重な戦力となった岡野だが、その時点で先輩たちを押しのけるほどの圧倒的な力を持っていたわけではない。一学年上にはスプリットという魔球を操るスーパーエース、歳内宏明(元阪神ほか)もいた。とはいえ、中学時代のスタートと比べたら雲泥の差だった。
「特待決まったよ」は母のウソだった
岡野が母親の嘘を知ったのは高1の冬だった。その間、自分が特待であることを一度も疑ったことはなかったという。
「特待かどうかって本人しかわからないので、みんな自分で言うんですよ。『俺、特待だよ』って。自分も言ってました。特待だと思ってたんで、そりゃ、言いますよね」
ところが、ある日、特待の選手が集められたにもかかわらず、岡野は呼ばれなかった。
「おかしいなと思って、母親に確認したんです。そしたら、『ずっと嘘ついてるのもあれだから……』って教えてくれたんです。何それ? って思っちゃいました。授業料とか免除されてんだと勝手に思っていたんですけど、全額払っていたんです。ただ、もう入っちゃってたんで、がんばるしかないという感じでしたね」
同学年・大谷と対戦した日
東北エリアは各県ともに強いチームの戦力が頭ふたつ分くらい抜けている。青森なら光星学院と青森山田、宮城なら仙台育英と東北の二強が突出している。岩手は花巻東と盛岡大附属が双璧と言っていいだろう。したがって、レベルが近いそのあたりのチーム同士は年に数回、練習試合を行うことになる。
聖光学院と花巻東もそうだった。岡野は中学時代も大谷と対戦しているが、さほど強い印象は受けなかったという。高校時代で覚えているのは2年春から夏にかけての大谷だった。
「150キロぐらい投げていたんで、おおーって思ったんです。けど、うちの遠藤(雅洋=三番、ショート)さんがセンターに目の覚めるような弾丸ライナーのホームランを打って。球は速いけど配球が単調で、うちの打線も4、5点ぐらい取ったんです」
大谷を語るときも岡野のテンションはさほど変わらなかった。
「(大谷のプレーを見て)打ちのめされるとかはなかったですね。そもそも対等だと思ってないですから。自分の方が下だと思っているので、比べるつもりもない。だから、こんなすごいやついるんだみたいな感じで見ていただけです」
中学の同級生「おまえ、どうしちゃったの?」
岡野が公式戦のベンチ入りを果たしたのは2年秋、チームの中で最上級生になってからだった。背番号は「1」だった。
「(エース番号は)小学生以来でしたね」
いよいよ「岡野の季節」が巡ってきた。

