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ロバーツ監督「ロウキは自己流だったから」ドジャースの奇跡…佐々木朗希を復活させたのは、プロ経験なし“30歳の投手オタク”だった「ロッテ時代から動画を見ていた」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2025/10/12 11:03
地区シリーズ第4戦・フィリーズ戦、3回を無安打2奪三振で抑えた佐々木朗希(23歳)
先発の駒はスネル、山本由伸、大谷翔平、グラスナウと十分に足りている。しかし、ブルペンは「恐怖の館」だ。経営陣は佐々木に「今季中にチームに貢献できるとするなら、ブルペンで投げることになるんだが」と話したところ、佐々木はこの配置転換を喜んで受け入れた。
ようやく、ドジャースに貢献できる時が来たのだ。
そして結果は……ご存じの通りだ。
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アメリカの実況では、「佐々木はドジャースの不安をすべて吹き飛ばしてしまうかもしれない」と評価していた。
運命は逆転したのだ。
“プロ経験がない”投手オタク
さて、気になるのはピッチング・ディレクターのロブ・ヒルのことだ。30歳で、こんな大仕事を成し遂げたのだから。
ヒルにはプロで投げた経験はない。大学時代、リリーフ投手として活躍していたが、1年生の時に肩を故障する。治療、トレーニング方法を探すうち、シアトル近郊にあるラボを探し当てた。
ドライブラインだ。
トレバー・バウアー、クレイトン・カーショーらの名だたる投手たちが動作解析を行い、トレーニングをした「虎の穴」である。
ヒルは2014年にドライブラインに通い出したが(19歳の時だ)、動作解析にのめりこんでいき、ウェストモント・カレッジを卒業すると、ドライブラインに就職した。彼は投手として活躍するよりも、動作解析の分野で天才だった。
2019年、24歳の時点で一部のメジャーリーグの投手の間でヒルは絶大な信頼を勝ち得ていた。特に、ハイスピードカメラによる動作解析から導き出されるドリルの処方に定評があり、そのセッションを受けた一人がカーショーだった。ヒルの噂はドジャースの上層部に届き、2019年12月、ヒルはこの名門球団と雇用契約を結ぶ。ドジャースにとっては、プロ経験があろうとなかろうと関係ない。優秀な人物との契約に躊躇はなかった。
そして2025年、ヒルはモニターの中で見ていた佐々木朗希と出会い、人生を変える処方を行った。
パッサン記者は「スーパースターを擁するドジャースには非難が寄せられがちだが、選手の問題を把握し、指導、明確なコミュニケーション回路を確保し、成長に導く力は野球界でも屈指」と評価している。
佐々木は他の球団では、このような復活はできなかっただろう。このポストシーズンの物語は、ロサンゼルス・ドジャースが起こした奇跡なのである。
さて、この秋の物語は、どんな結末を迎えるだろうか?

