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ロバーツ監督「ロウキは自己流だったから」ドジャースの奇跡…佐々木朗希を復活させたのは、プロ経験なし“30歳の投手オタク”だった「ロッテ時代から動画を見ていた」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2025/10/12 11:03
地区シリーズ第4戦・フィリーズ戦、3回を無安打2奪三振で抑えた佐々木朗希(23歳)
佐々木が完全試合を達成した2022年のシーズンと比べ、フォーシームの球速は7マイル、10キロ以上遅くなっていた。その原因はなにか? 「骨盤」がその鍵だった。
2022年と2025年の投球フォームを比較すると、右膝に違いがあった。好調時の佐々木は、左足をハイキックする時に右膝は曲がり、タメを作って骨盤が早く回転してしまうこと、日本語で言うところの体を早く開くことが抑えられていた。タメが出来ることで、踏み出す左足にしっかりと重心が乗り、下半身から生まれた力が指先に伝わる。
しかし、2025年は右足が伸びていた。それによって骨盤が前傾してしまい、下半身から生まれたエネルギーが逃げ、球速が落ち込むことにつながっていた。
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ヒルは右足を曲げることを提案した。骨盤の前傾を避け、体の開きを遅らせる。それによって、爆発的なエネルギーが戻ってくるはずだった。動作の改善とともに、「UP, DOWN, OUT」という極めて単純な「呪文」を授けた。
UP、左足を大きくキックする。DOWN、その足を真下に下ろし、深く沈み込む。これによって体の開きが抑えられ、エネルギーがため込まれる。そしてOUT、ボールに力を込める。この一連の動きによって下半身から生まれたエネルギーが上半身をつたって、腕へとスムースに伝達される。
ロバーツ監督「ロウキは指導を受けたことがなかった」
普通は動きを調整するためのドリルから「治療」が始まるというのだが、佐々木はすぐに試すと話し、9月6日のブルペンでは95から97マイル(153~156キロ)のフォーシームを投げた。抜群の修正力だ。ヒルはパッサン記者にこう話している。
「聞き取りのなかで確かめているのは、これがソフトウェアの問題なのか、ハードウェアの問題なのかを見極めること。ハードウェアの問題ではないと判断できれば、関節を正しい位置に整えるだけで、すぐに改善できる可能性があります」
佐々木の場合、すぐに改善した。
ロバーツ監督はこう話す。
「ロウキは才能があふれていたので、指導らしい指導を受けたことがなかった。自己流でここまでやってきたんだ」
高校でも、千葉ロッテでも与えられなかった“処方箋”、いや、メジャーリーグの他球団でも手にすることが出来なかったであろう処方箋を手にして、佐々木は驚くべき復活を遂げた。
佐々木が100マイルを投げられるとなって、ドジャースは動いた。


