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「WBCでは『ヘタクソ!』と誹謗中傷されて」YouTuberキャッチャーコーチと甲斐拓也“二人の変わり者”の挑戦とは?「日本の捕手は保守的ですから」
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熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHiromu Midorikawa
posted2025/09/20 11:04
キャッチャー専門コーチでYouTuberの緑川大陸(ひろむ)さん(左)と甲斐拓也。前回WBCで非難の嵐にさらされたという彼らの取り組みとは?(写真:本人提供)
「野村(克也)監督が、かつてこう言っていたよね。三流は無視され、二流は称賛され、一流は非難される。キャッチングひとつでこれだけ叩かれるのは、あなたが一流だからです。そう思うしかない」
誹謗中傷書き込みの多さにSNSも断った
ストレスにさいなまれていたのは甲斐だけではなかった。冒頭に触れたように火の粉は “変なことを吹き込む”プライベートコーチにも降り注ぎ、緑川さんもまた眠ることができなくなっていた。
「ぼくのところにも誹謗中傷のコメントがたくさん書き込まれたので、しばらくSNSを断ちました。大会中は“甲斐が失敗しませんように”、“無事に終わりますように”と、そればかり祈っていました。気を張りつめすぎていたせいか、優勝したあと39度の高熱が出て、しばらく寝込んだほどです」
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大会が終わってすぐ甲斐から電話がかかってきたが、「終わりました、やっと……」という声は優勝したのがうそのように力がなかったという。
メジャーの一流捕手の技を現場で
もっともWBC出場は悪いことばかりではなかった。国際大会での収穫を、甲斐は次のように語ったという。
「試合中、ベンチにいることも多かったので、冷静に横からメジャーのキャッチャー、J・T・リアルミュート(フィラデルフィア・フィリーズ)やオースティン・バーンズ(当時ロサンゼルス・ドジャース)がやっていることを見られたのは、とても有意義でした。実際に現場で見ていると、メジャーのキャッチャーがやっていて、日本のキャッチャーがやっていないことが手に取るようにわかるんです。それをいま、自分はやろうとしている。そこについては確実に光が見えました」
こうした甲斐の苦労話を聞く中で、筆者は「あれ?」と思った。
千賀を通じてフレーミングに出会った時点で、甲斐はすでに球界屈指のキャッチャーとしての地位を不動のものにしていた。ゴールデングラブの常連であり、「甲斐キャノン」というわかりやすい長所もある。本来なら、キャッチングを一から見直す必要などないはずなのだ。


