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甲子園の風BACK NUMBER
「正直嬉しくはないです。でも」逆転サヨナラ満塁弾を今も聞かれ…甲子園で悲劇の左腕・寺沢孝多が「プロが目標」と簡単に口にできない理由
posted2025/09/03 11:02
星稜高校時代、奥川恭伸の2番手投手だった寺沢孝多。逆転サヨナラ満塁弾を浴びるなどの甲子園を経て、今は何をしているのか
text by

間淳Jun Aida
photograph by
YAMAHA(ヤマハ野球部提供)
スタンドの反応でわかった逆転サヨナラ満塁本塁打
2018年、第100回の夏の甲子園は、吉田輝星が熱投を続けた金足農の「カナノウ旋風」や根尾昂、藤原恭大らを擁して春夏連覇を達成した大阪桐蔭など、数々の印象に残る試合が生まれた。その中で思いもかけない結末を迎えたのは2回戦、星稜(石川)と済美(愛媛)の一戦――悲劇を味わうことになったのは、星稜の6番手として投げた寺沢孝多だった。
タイブレークに持ち込まれた延長13回、星稜は表の攻撃で2点を奪っていたものの、投手を使い切っていた。そのため9回から登板していた寺沢は、この回もマウンドに上がった。先頭打者にセーフティバントを決められた。無死満塁。安打1本で同点の大ピンチへと一変した。
対峙するのは、済美の1番打者・矢野功一郎。寺沢には焦りが芽生えていた。
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「アウトがほしい」
安打はもちろん、四死球も避けたい。アウトを1つ取れば、流れを断ち切れる。1ボール2ストライクと追い込んだ寺沢は、捕手が外角に構えたミットに向かってスライダーを投げ込む。ただ、アウトを欲する心理が影響したのか、投球は内側に入ってしまう。
左打者の矢野が引っ張った飛球は、右翼のポール際へ飛ぶ。静まり返るスタンド。マウンドの寺沢はファウルと判断した。矢野も打球が切れると思い、一塁へ走る足を止めていた。しかし、数秒後、静寂が大歓声に変わる。
「打球がよく見えず、スタンドの反応で本塁打と分かりました」
ポールに直撃する逆転満塁サヨナラ本塁打。寺沢は拍手と歓声に沸く聖地のスタンドに現実を突きつけられた。
色んなところで聞かれるのはあまり嬉しくないですが
7年経った今も、当時の場面が話題になることもあるという。
済美との激闘、ドラマのような決着で“脇役”となった姿は多くの人の脳裏に刻まれている。寺沢にとって苦い記憶ではあるが、決して悲観していない。

