甲子園「今大会最高の名勝負」で横浜が見せた“日本野球の真髄”とは何か？ 見逃されがちな「高度な守備戦術」vs県岐阜商の打力の攻防を振り返る 

　村田監督はいう。

「奥村のいいプレーが出た。一塁が転んでいるのを見て二塁に投げた。アウトはどこでも取れるといつも話しているので、それが出たプレーでした」

　延長タイブレークの10回表は横浜が3点を勝ち越し。逆に県岐商がバント処理でミスを犯して、適時打を浴びた。これで勝負あったかと思われたが、県岐商の打線はそこからひるまなかった。10回裏、先頭の宮川鉄平の中前安打で満塁とすると、続く小鎗稜也が走者一掃の適時二塁打を放って同点に追いついたのだ。

ADVERTISEMENT

　横浜側からすればまだサヨナラ負けのピンチが続くが、この無死二塁の場面では7番・横山温大の送りバントを三塁で刺した。こちらも、横浜守備陣の絵に描いたようなバント処理だった。さらに中前安打で一、三塁のピンチを作られると、ここでも内野5人シフト。投手の奥村頼人が粘り、2者を打ちとったのだった。

内野5人シフトで10回は同点まででしのいだ　©Hideki Sugiyama

県岐商の打棒と横浜の守備戦術の名勝負

　どんな状況でもフルスイングをしてコンタクトする、県岐商の打棒は圧巻だった。追い込まれてからノーステップ打法に切り替えるなどのアプローチも、レベルが高かった。そんな攻撃をすんでのところで守り切る、横浜の守備力もたまらなかった。これがどちらかのワンサイドで、県岐商の打撃ばかり目立っても、あるいはただ横浜の洗練された守備戦術が目立っても、この試合はこれほどの「ベストゲーム」にはならなかっただろう。

　延長11回表、横浜が無得点に終わると、その裏に決着が訪れた。しかし、土壇場の場面でもバントシフトを敷いたり、併殺を狙うなど、横浜の守備戦術は最後まで高度なものだった。

「野球は考えれば考えるほどいろんな作戦があります。それを追求してきたのが横浜高校の、渡辺（元智）監督、小倉コーチが作られてきた野球で、私もそれを学んできました。そのいいところは継承して、変えていかなきゃいけないというところは変える、という考えの中で取り組んでいます」

【次ページ】　甲子園を引き締めた横浜の「日本野球の真髄」