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野球善哉BACK NUMBER
甲子園「今大会最高の名勝負」で横浜が見せた“日本野球の真髄”とは何か? 見逃されがちな「高度な守備戦術」vs県岐阜商の打力の攻防を振り返る
posted2025/08/26 11:03
16安打を放った県岐商の打棒を、横浜が高度な守備戦術で阻み続けたことが名勝負を生んだ
text by

氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
試合は初回から県岐商打線が横浜投手陣を圧倒。先発・織田翔希をはじめ、3人の投手をことごとく攻略した。5回までに9安打4得点。ワンサイドの様相さえ見せた前半戦だった。
しかし、後半になって横浜の反撃がはじまる。6回表に、1死満塁のチャンスを掴んだのだ。それまで先発左腕・渡辺大雅の緩い変化球に手を焼いていたのだが、本格派右腕の柴田蒼亮が登板すると、2死球などもあってチャンスを作った。
ここで横浜の5番・小野舜友はセカンドゴロを放つが、これが併殺崩れ。判定は微妙なところではあったものの、そのジャッジの隙に、横浜は二塁走者までもが生還したのだ。ただの併殺崩れが、一気に2得点。ソツがなかった。さらに本塁突入に慌てた県岐商の一塁手が悪送球。小野は二塁へ到達する。そして、6番・池田聖摩が中前安打。二走の小野は本塁に生還、1点差とした。
一見、横浜のミスに見えたプレーだが……
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8回に県岐商の守備のミスにより、横浜が同点に追いつくと、そこからは1点を争う攻防となった。県岐商が攻め、横浜が高度に守るという展開のなかで、球史に残るようなビッグプレーが続出したのだ。
9回裏、タイブレークの延長戦が見えた中、県岐商がチャンスを迎える。先頭の渡辺瑠海が遊撃内野安打で出塁。続く9番の柴田蒼亮がバントの構えを見せると、横浜はそれをさせまいと強烈なバントシフトを敷いた。一、三塁手が猛然とチャージ。かと思いきや、時に、一塁手がベースに戻っての牽制もする。柴田はそのプレッシャーに屈したのか、バントを失敗してしまった。
続く1番の駒瀬陽尊は一塁ゴロを放つが、横浜の一塁手・小野が二塁へ転送した送球が走者に当たってしまい、二、三塁のピンチとなる。一見、横浜の守備のミスに見えるが、ここにも横浜野球のこだわりがあった。駒瀬のゴロは一塁への力のない打球。通常なら、ミスのリスクを恐れて二塁封殺は狙わず一塁だけを確実にアウトにしにいくものだが、横浜には「先の塁を簡単にやらない」という哲学があるからこそのプレーだった。

