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甲子園「今大会最高の名勝負」で横浜が見せた“日本野球の真髄”とは何か? 見逃されがちな「高度な守備戦術」vs県岐阜商の打力の攻防を振り返る 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2025/08/26 11:03

甲子園「今大会最高の名勝負」で横浜が見せた“日本野球の真髄”とは何か? 見逃されがちな「高度な守備戦術」vs県岐阜商の打力の攻防を振り返る<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

16安打を放った県岐商の打棒を、横浜が高度な守備戦術で阻み続けたことが名勝負を生んだ

実戦でも経験済みだった内野5人シフト

 とはいえ、一転、サヨナラ負けのピンチ。ここで横浜ベンチは動く。外野手を一枚削って、内野手5人シフトを敷いたのだ。

「内野手5人シフトは、練習でもやっている。毎日ではないんですけれども、想定しています。相手の打者が引っ張れないと判断できたので、右方向に寄せて守りました」

 横浜の村田浩明監督はそう話す。これがつまり、「100回に1回あるかわからない」の想定だ。内野手5人シフト自体は珍しいわけではないが、実戦でのプレーを想定しているチームは多くはない。昨年夏の甲子園、早稲田実が大社との試合で内野5人シフトを敷いたが、「練習でやったことはありますが、試合では初めて」だったことが、取材で明らかになった。横浜は昨秋の神宮大会の東洋大姫路戦でも内野5人シフトをやっていたし、その際も「練習試合でやったことがある」とも話していた。

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 そして、このシフトが功を奏する。2番の稲熊桜史が5球目にスクイズを試みたが、一塁手の小野がホームへのグラブトスで生還を阻止した。しかし、続く内山元太に死球を与えてまたも満塁のピンチに。そして、ここでとんでもないビッグプレーが出る。

瞬時の判断によるビッグプレー

 この2死満塁で、県岐商の4番・坂口路歩は一、二塁間へゴロを放った。凡打に見えたが、横浜の一塁手・小野が、自身もボールを捕球しようと二塁方向へ若干飛び出してしまったのだ。小野は踵を返すように一塁ベースへと入ろうとしたが、その足はもつれていた。

 スタンドから見ると小野は間に合いそうになかったのだが、その刹那のボールを処理した二塁手・奥村凌大が見事だった。小野の状況を見て、一塁には目もくれず、二塁へと転送、フォースアウトとしたのだ。「小野が出過ぎているのが見えたので、間に合わないと思った」と奥村。試合の土壇場での、広い視野と切り替えの判断。高校野球レベルを超越したビッグプレーだった。

【次ページ】 県岐商の打棒と横浜の守備戦術の名勝負

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