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「おれが荒木(大輔)さんを打つ!」“池田高と水野雄仁の時代”とは何だったのか…甲子園連覇の栄光と蹉跌「だって、一度も負けたことなかったから」
text by

赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byKatsuro Okazawa/AFLO
posted2025/08/28 11:04
「阿波の金太郎」と称された池田高のエースで主砲・水野雄仁。82年夏の甲子園で
(荒木は)雑誌のグラビアと一緒やな
江上はもっと一ファンに近い感覚で荒木を眺めていた。試合直前、雨天練習場で初めて目にしたスターに、「雑誌のグラビアと一緒やな」と、憧れのタレントを見るのと同じような感想を抱いたという。
そして、試合の初回、今度は初めて荒木のカーブを目の当たりにする。2ストライク1ボールから投げ込まれた決め球は、見たこともないような軌道を描いて入ってきた。
「球のキレといい、タテに落ちてくる角度といい、徳島の県大会あたりとはレベルが違いました。外角高めに来たカーブが、どこまでも曲がっていきそうで、バットを止めたら、たまたま当たってファウルになったんです」
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次はカーブか、それとも真っ直ぐか。1球牽制を挟んで、荒木がボールを手から離した瞬間、江上にはわかった。カーブだ!
「ほんのわずかの一瞬です。荒木さんの手元から、ピュッと球が上に抜けたのが見えた。よしっと思って、その軌道にバットを合わせにいったんです。それでバットを振ったら、思っていたのとは逆の方向に飛んでいった」
実際には、合わせにいくどころか思い切り振っていた。大根切りのようなスイングで、ライナー性の打球を右翼席まで運んだのだ。
荒木を打ち崩して優勝へ
その光景を思い返して、水野が言う。
「江上にはやられたなあ。おれが最初に荒木さんからホームランを打つはずだったのに」
そう思いながらも、江上がベンチヘ帰ってくると言わずにはいられなかった。「やったな! あの荒木から打ったんだぞ!」と。
江上は素直に嬉しかった。中学時代から徳島で名を売っていた水野と違い、江上は蔦監督に拾われるように入学している。そんな江上が初めての練習でキャッチボールの相手を探していたとき、「一緒にやろう」と声をかけてくれたのが水野だったからだ。
その水野もまた、6回に荒木から2ランホームランを放つ。8回にも満塁アーチをかけて、自らの誓いを実現させた。結果は14-2の大勝だった。この勢いを駆って決勝戦も広島商業を12-2でくだして初優勝、時代が変わったことをまざまざと印象づけた。
〈2回目につづく〉

