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甲子園の風BACK NUMBER
「木内のじいさんの涙の芝居で、頑張ろうと(笑)」名将・木内幸男マジックでPLを撃破…取手二高の甲子園優勝メンバーだった現監督は「もう一度取手を元気に」
text by

内田勝治Katsuharu Uchida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/08/20 11:01
「木内マジック」と呼ばれた采配で公立校の取手二高を甲子園優勝に導いた木内監督。同年の秋に木内監督は常総学院高に移り、それ以来取手二は甲子園に出場していない
試合は33分遅れで始まった。桑田の球に2カ月前の切れはない。1番吉田、2番佐々木力と凡打に倒れるも、2人からは「いつもの桑田じゃねえ。今日はいけるぞ」と声が挙がる。木内はベンチから「2年生に負けてたまるか!」とナインを鼓舞した。
幸運な先制
そして3番下田の中越え二塁打で、ベンチは俄然勢いづいた。続く4番桑原淳也の中前打を鈴木英之が後逸。外野芝生は雨水をたっぷり含んでおり、打球がスリップしたのだ。打者走者の桑原も一気に生還し、2死から2点を先制した。
「あの2点のハンデは大きかったですよね。ウチが先制しないと勝ち目はなかったと思います」
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その裏、PLは2死二塁の好機で、清原が右翼ポールの遥か上を通過する大飛球を放ったが、判定はファウル。雨上がりで球場全体にもやがかかり、視界が悪かったことも幸いした。PLは結局この回無得点。取手二が試合の主導権を握り、7回には吉田が2ランを放つなど、4対1と3点をリードした。
ただ、相手は「逆転のPL」と呼ばれる昨夏の王者。簡単には勝たせてくれない。8回に2点を返され1点差に迫られると、9回、力投を続けてきたエースの石田文樹(大洋、横浜)が先頭の清水哲に同点弾を浴びた。
「レフトを守っていて、三塁側のPLの応援が凄かったので、このままでは終わらないだろうと思っていました。そうしたら案の定、先頭打者の打球が頭を越えていって、もうやばいと思いました」
「木内マジック」継投
続く2番松本康宏に死球を与えた石田の表情は青ざめていた。ここで木内が動いた。変則左腕の柏葉勝己をマウンドに上げ、石田を右翼に回したのだ。ひょっとしたら、代名詞の「木内マジック」は、この采配から生まれたのかもしれない。
柏葉への継投はピッタリとはまった。鈴木のバントは、雨のため入れられた砂の影響で打球が転がらず、捕手の中島彰一が二塁封殺。そして平静を取り戻した石田をマウンドへ戻し、清原をシュートで空振り三振、桑田を三ゴロに仕留めた。
ベンチに帰ると木内は笑っていた。

