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甲子園の風BACK NUMBER
「木内のじいさんの涙の芝居で、頑張ろうと(笑)」名将・木内幸男マジックでPLを撃破…取手二高の甲子園優勝メンバーだった現監督は「もう一度取手を元気に」
text by

内田勝治Katsuharu Uchida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/08/20 11:01
「木内マジック」と呼ばれた采配で公立校の取手二高を甲子園優勝に導いた木内監督。同年の秋に木内監督は常総学院高に移り、それ以来取手二は甲子園に出場していない
「お前ら、まだ甲子園で野球がやれるんだから、よかったじゃないか」
その一言に全員が勇気をもらった。そして10回表、中島が3ランを放つなど、4点を奪い、8対4で競り勝った。あのワンポイント継投が、茨城県勢に初の全国制覇をもたらしたのだ。
下田は、恩師の采配を、「雀鬼」の異名を持つ伝説の雀士・桜井章一に重ねる。
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「本当の勝負師ですよね。私も監督をして分かりましたが、他の指導者では絶対にあり得ない勝ち方なんです。本当に流れを読むスペシャリストで、桜井章一と同じように、最終的には勝つことに全てをかけた人だと思います」
「旗は2本あるから」
決勝に進出した時点で、取手に帰れば優勝でも準優勝でもパレードをやることが決まっていた。木内はナインにこう言った。
「旗は2本あるから、勝っても負けても格好はつく。だから明日は気楽にやれ」
選抜には紫紺の大優勝旗と準優勝旗があるが、夏の甲子園は深紅の大優勝旗のみだ。ただ、監督にあると言われたら、信じるのが昭和の高校生だろう。木内の暗示にかかり、決勝で実力以上の結果を出すことができた。
深紅の優勝旗を携えての凱旋は、利根川の河川敷に3万人ほどが集まる熱狂ぶりで、警察署に避難する騒動になった。あの夏、取手は間違いなく日本で一番熱かった。
もう一度取手を元気にしたい
「取手に帰ってきた時、知らないおじさんに『今年はお前らのお陰でめちゃくちゃ楽しい夏になったよ』と言われたんです。こうして今、母校に携われているのも、木内幸男のお陰だと思っています。このチームをもう一度勝たせて、取手を元気にしたいという思いが強いです」
木内は下田が監督に就任する前年の2020年11月、89歳でこの世を去った。
「今頃、天国で『あの下田が監督か。ガハハッ!』って笑っていると思うよ」
スカイブルーのユニホームは甲子園でこそよく映える。空の上の恩師に復活の報告ができるその日まで、歩みを止めることはない。
〈全2回の2回目/はじめから読む〉


