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甲子園の風BACK NUMBER
「ウチは特待生も寮もない…」“史上最少6校のみ”甲子園から公立校が消えていく…出場6校の監督に聞いた、公立校の本音「あの金足農も部員数に危機感」
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/15 11:08
沖縄尚学に敗れ、泣き崩れる金足農の吉田大輝
「日本が大変なことになった時、最後に生き残るのは農業高校じゃないですか」
8月6日、金足農は宮崎商につづく第3試合に登場した。相手は優勝候補にも挙げられていた沖縄尚学。「攻撃のところは何とも言えないです。ただピンチで守り抜く、そういう守備を見せられれば」(中泉)。失策こそあったが優勝候補を相手に守る野球は見せた。スコア0-1。打たれた安打は4、打った安打は3。1点が届かなかった。これで公立校は連敗スタートになった。
「寮がないので…ほぼ移住です」
同じ公立校とはいえ置かれる状況は県によって異なる。鳴門がある徳島は昔から「公立王国」として知られる。今夏の徳島大会に出場した28校のうち私立は生光学園の1校だ。
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「僕の印象ですけど」。鳴門を率いる32歳監督、岡田将和が語る。
「公立校の良さは間違いなくある。うちは県外の子もいますが徳島出身が多い。だから一体感というのかな、選手全員で練習、試合に臨むっていう意識はすごく強いと思います」
今年の鳴門野球部は混沌としていた。6月のことだ。当時の監督に、選手への暴言・体罰で謹慎3カ月の処分が下された。それを受けて部長の岡田が監督に就任したという経緯がある。
岡田に強豪私立のうらやましいところを尋ねると、笑みを浮かべながら即答した。
「寮です。練習時間は負けてないんかなと思うんですけど。寮があればなと」
鳴門の部員数は3学年で36人。寮の有り無しは部員集めを左右するポイントなのだと言う。
「鳴門市が徳島の端っこにあるんです、東の端に。通学できる範囲に住む子どもが少なくて。県内でも遠方の子どもは、寮がないので下宿になる。大決断ですよ。ほぼ移住です。両親と一緒に鳴門に引っ越したり、家族が離れ離れになったりもあるので、よっぽどの覚悟が必要なんです」
徳島は2016年度から県外生徒の受け入れが認められている。が、寮がない場合、保護者とともに移住する必要があるという。それゆえ選手勧誘も県内の近隣中学が中心になる。
「県内の中学校とか、硬式チームですね。選手に直接声をかけて勧誘というのはできない。(中学チームの)監督さんとの雑談で『あの選手が鳴門に来てくれたら……ありがたいです』って話をします。甲子園出場でいえば横一線という状況ですので。その意味で徳島はチャンスありますよ」
8月6日、金足農につづく第4試合に鳴門は登場した。敗れれば同じ日に公立校が3連敗ということになる。抽選会後の取材で、主将の藤原琉聖はこう話していたものだ。
「私立に比べたら環境面で落ちてしまうんですけど。それでも甲子園で勝てる。そんな姿を見せたいです」
鳴門が“3連敗”を阻止した。天理(奈良)を相手に5-4で競り勝ったのだ。徳島の“東の端っこ”にある高校が今夏の公立校「1勝目」を挙げた。
ここまで公立校の1勝2敗――残る3校の公立監督が明かした「言い分」、そして結果へつづく。

