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「甲子園の感動物語…そんなレベルの話ではない」“左手指のハンディ”感じさせず…県岐阜商・横山温大「ベンチ入りは厳しい」指導者の予想を超えた夏
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安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/14 11:02
県岐阜商の横山温大(3年)。1回戦の日大山形戦は2安打1打点の活躍で勝利に貢献した
「ベンチ入りは厳しい」と言われていた下級生時代
高校では外野手に専念したが、県内屈指の強豪校で背番号をつけ、ましてレギュラーをつかむのは大変だった。
「実は……」。地元新聞社の担当記者が下級生時代のエピソードを教えてくれた。
入学時から昨夏まで監督を務めていた鍛治舎巧さんに横山選手の取材について相談したところ、「本人はすごく努力しているが、ベンチ入りメンバーに入れるかどうかとなると、厳しいかもしれない。それでもよければ、取材してください」と言われたという。
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中学、高校野球を長く指導するベテラン指導者の予想を大きく超える成長を示したのだから、横山選手がそれだけの努力を重ねたということだ。
右手に比べて左手の力が弱いことから、右手を徹底的に鍛えた。筋力トレーニングでバーベルを使うのは難しいから、「代わりにチューブを使ったトレーニングをするなど工夫をしてきました」と言う。
それでもバッティングをすると、最後まで両手でバットを振ることはできない。
「最後まで左手を離さない。バットをしっかりと押し込めるように意識してやってきました」
今春に初めて背番号「17」をつけてベンチ入りすると、最後の夏は背番号「9」をつかんだ。岐阜大会ではチームトップの打率5割2分6厘(19打数10安打)をマーク。決勝は3安打1打点、2四死球、2盗塁の大活躍で、伝統校の3年ぶり31回目の出場に貢献した。
あの高嶋仁もうなった「理想的なバッティングや」
8月11日の第1試合、日大山形戦。横山選手は県岐阜商の7番ライトで先発出場した。
1回表にライトの守備位置まで走ると、帽子をとって一礼した。
3回裏の第1打席はセンターフライに倒れたが、5回は1死二塁、一打同点のチャンスで左打席に入った。
2ボール1ストライクからの4球目、内角のボールを力強くたたく。やや詰まりながらもライト前に運び、二塁走者を同点のホームに迎え入れた。
この一打を見た元智辯和歌山監督の高嶋仁さんは「理想的なバッティングや」とうなったという。
「手のことは知らんと見とったんです。打つ瞬間に後ろの手を放す打ち方はある。その方がバットがスムーズに出ることもあるんです。そういうバッティングやと思ったんです。それぐらい、ええバッティングでした」

