甲子園の風BACK NUMBER
「甲子園の感動物語…そんなレベルの話ではない」“左手指のハンディ”感じさせず…県岐阜商・横山温大「ベンチ入りは厳しい」指導者の予想を超えた夏
text by

安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/14 11:02
県岐阜商の横山温大(3年)。1回戦の日大山形戦は2安打1打点の活躍で勝利に貢献した
放送席では山下さんがうなっていた。
「軸の回転を使って打ちましたね。腰を使って。素晴らしいですね」
さらに7回は痛烈な投手ライナー、8回はレフト線へきれいに流し打つヒットを放つ。
ADVERTISEMENT
「ライト前ヒット、ピッチャーライナー、レフトへ。痛烈な打球ですねえ」
山下さんも感心するしかない。
「感動物語…そんなレベルの話ではないですよ」
観客席でも、多くの高校野球ファンが感嘆の声をあげ、拍手を送っていた。“高校野球大好き芸人”として知られるいけだてつやさんは「生まれつきのハンディをものともしない。本当にすごい。すごいです」と感激していた。
トップレベルの選手を追うプロ野球スカウト陣の心にも、横山選手のプレーは響いていた。
「感動物語にしてはいけない。そんなレベルの話ではないですよ」
日本ハムのGM補佐兼スカウト部長の大渕隆さんは話す。
「甲子園は体がものをいう世界です。野球とサッカーは、やっぱり日本のスポーツでもトップクラスの才能が集まっている。その選手たちが目指す場所が甲子園なんです。その甲子園に来て、誰にも負けない活躍をする。ここで自分の可能性を示した。それは、本当にすごいことです」
かつて、先天性右手欠損というハンディを抱えながら、大リーガーとなり、通算87勝をあげたジム・アボットという左腕投手がいた。
アマチュア時代には1988年ソウル五輪に出場し、決勝で日本を相手に7安打3失点完投し、アメリカに金メダルをもたらしている。
そのアボットさんを取材した先輩記者から、本人がこう話していたと聞いたことがある。
「私はハンディを克服したと特別視されるのではなく、単に『グッド・ピッチャー』と呼ばれたい」
横山選手も、「ハンディとか関係なく、周囲が普通に接してくれるのがうれしい」と話しているという。それはもちろん、本人の努力があったからなのだが、だからこそ、私たちも1人のアスリートとして彼を取材しなければいけないと反省した。
2回戦に向けて抱負を聞かれた横山選手の回答は明快だった。
「もっと練習して、次の試合でも活躍できるようにがんばります」

